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「ゴエモンはさ、憎んでないの? 石川五右衛門のこと」
めずらしく帰りも一緒になった。一緒に帰ろうとしたわけじゃなくて、周りにいた子たちが一人、また一人とべつの道を行って、最終的にゴエモンと二人になった。
「憎む? どうして」
「だって、あんなふうにいわれのない罪をなすりつけられるじゃない」
あなたのおじいちゃんみたいに、とは、さすがにいえない。
「おれが今日疑われたのはただの不運だ。石川五右衛門は、いまもおれたち家族をまもってる」
「石川五右衛門が、ゴエモンたちを?」
ゴエモンが静かにうなずく。
なにそれ。意味わかんない。道端の小石を蹴る。
「わたしだって、ゴエモンをまもりたかった」
わたしはいまだにいじけている。ゴエモンが疑われたことにも、わたしがゴエモンをまもれなかったことにも、ゴエモンをまもったのが早瀬さんだったことにも。
「そうか。じゃあおれも、梨本美羽をまもるよ」
「やめて。わたしはそんなにかよわい女じゃないの」
「そうか。強いんだな、梨本美羽は」
細まる三白眼。白い羽を吐くような柔い笑いかた。
わたし、ゴエモンの笑いかた、好き。涙が出る。
「わたしだって、ゴエモンがやったんじゃないって信じてた」
「そうか。ありがとう」
「ほんとだもん」
「わかってるよ」
「わかってない」
「わかってるって」
洟をすすって、涙を拭う。
「強いんじゃなかったのか? 梨本美羽」
「うるさい」
ごめん。ごめんね、ゴエモン。まもってあげられなくて、自分のことばっかり考えて、ごめん。次はぜったい、わたしがいちばんにゴエモンをまもる。わたしだけは、ゴエモンの味方になる。なりたい。
明日じゃない。
今日変わろう。わたしは。
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