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霜月
11月の夜空に、卯の花色の満月が浮かんでいる。天窓から注ぐその光を全身に浴びながら、おれはじっと耳を澄ませた。
目を閉じ、心静かに、月詠様のお声に全神経を集中させる。
車の音も、虫の声も、風に揺れる木々のざわめきも聴こえない。小さな社に十人も人がいるのに、しわぶきひとつない。壁を背に居並ぶ男たちは衣擦れの音を立てることも許されず、中央に正座するおれをじっと見つめている。
ギシ、と、床の軋む音が響いた。男たちが息を呑む。 覡子であるおれが膝を崩すのは、月詠様への傾注が終わった合図だ。
「ご神託は」
語尾を上げずに、村長が低い声で問う。おれはあごを引き、板張りの床に目を落とした。
おれが数を口にしたら。
その数だけ、村人が死ぬことになる。
『卯年の皆既月蝕には、村の守神である月詠様が望む数の生贄を捧げなければならない』
それが、この村に伝わる掟だからだ。
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