3・この、ほのかな甘酸っぱさって……

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 そのなかにあって、ルイはすっかりお仕事モード。  チャコールグレーの三つ揃いのスーツに臙脂色のタイ。  相変わらず、おしゃれ。  何を着ても、本当によく似合う。    彼はせわしなくコーヒーを飲みクロワッサンだけ食べると、立ち上がった。 「ほったらかしですまないな。帰ったばかりで仕事が山積していてね」 「大丈夫。単独行動、大歓迎です。パリの地図ならしっかり頭に入ってますから」  わたしは自分の頭を人差し指でつんつんとつついて見せる。 「頼もしいな。だが、着いたばかりだ。張り切りすぎるとバテてしまうぞ」 「大丈夫。体力はあるんで。若いから」 「それは……暗にわたしが年寄りだと言っていると聞こえなくもないが」  ルイは苦笑して、仕事に出掛けていった。  それからの3日間。  わたしは文字通り、朝から晩まで、精力的にパリの街をぐるぐる歩き回った。  なにしろ、ずっと焦がれつづけた憧れの地にいるのだ。  とてもじゃないけど、じっとしてなんかいられない。
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