1330人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
とうとうパパが、大きなお腹を揺らしながらやってきてしまった。
「いやあ、とんだところを……面目ない」
「いや、なかなかイキのいいお嬢さんですね」
なにが〝イキのいい〟よ!
魚じゃあるまいし。
なんか、むかつく、この男。
あーあ、損した。
イケボのイケメンだなんて、ちょっと、ときめいたりして。
***
ほんとに最悪。
ぜったい厄日だ。今日は。
と、不貞腐れているわたしは久世薫、二十歳。
短大のライフデザイン科2年生。
家は戦前から続く、呉服を扱う老舗織物問屋。
父方の祖母は華族の血を引く名門家系。
まあ、一応、〝お嬢様〟ってことになるのかな、世間的には。
「薫、むくれてないで、ちゃんとご挨拶なさい」
ママがわたしをたしなめる。
知らないよ!
「いや、ひとり娘なもので、ついつい甘やかしまして」
パパが頭を掻きながら、そんなことを言ってる。
最初のコメントを投稿しよう!