3人が本棚に入れています
本棚に追加
キッチンに入るとテーブルで幸之助が本を読んでいた。
私にちらりと視線を向けて、すぐに本のページに戻す。
何となく気まずい空気を感じるが、とりあえず夕飯の準備をしなければならない。まずはお粥を先に作ろう。
そう思って冷蔵庫を開ける私に、幸之助が不意に話しかけてきた。
「ねえ、パパ」
「え?何?」
「ママのことヨメっていうの、前から思ってたんだけど、やめたら?」
「え?なんで?」
さっきの電話での会話を聞いての事だろうが、結婚してこのかた嫁というのは普通に私が使ってきた言葉だった。
「感じ悪いじゃん。だってママはパパのヨメじゃないもん。おばあちゃんたちがそう言うならわかるけどさ、パパが言ったら感じ悪いよ。なんかエラそう。ママだって絶対イヤだなって思ってるよ。めんどくさいから言わないだけでさ」
「え、そうなの?感じ悪いか?」
「悪いよ」
確かに正しくは嫁は私の妻であって嫁ではないだろう。しかし、そんな厳格に言葉を選んではいなかった。何となく、周りも自分の奥さんを嫁と呼んでるのを聞いていて、自然にそう言っていただけなのだが、果たして妻である彼女は「嫌だな」と思っているのだろうか?
「そ、そうか。判った。気を付けるよ。それで、今日何食べたい?」
「カレー」
「そうか。よし、判った。美味いカレー作ってやる」
最初のコメントを投稿しよう!