大人は子供をだましたい

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 翌朝、妻と二人で朝食の用意をしている所に、幸之助がやってきた。髪にはまだ寝癖が付いていて、片手には私が買ってきたプレゼントの絵本がある。  結局昨夜は、幸之助が御馳走で今日は食べきれないからケーキは明日にしようと言って、妻の怒りを鎮めてくれた。全く聡明な息子だ。  三人でおはようと言い合い、幸之助が少し要領を得ない顔をしているのに気付いた。 「どうした?」 「うん。パパ、これありがとう」 「うん」 「ねえ、これは、ママ?」  妻が林檎を切り分けながら幸之助を見る。  幸之助は後ろに隠していたもう片方の手を私たちに見せた。手には小さな箱が握られていた。ほどけたリボンと開いた赤い包装紙も同じ手に持っている。 「え?」 「スコーンがはいってた、ふたつ、チョコチップの」 「君が置いたの?」 「え?知らないわよ、私」  妻はブンブンと首を振る。 「え?じゃあ、何?僕、本しか置いてないよ、ツリーの下」  私は妻と顔を見合わせるが、お互いに言いがかりは止めろという表情になるばかりだった。  そのうち幸之助が「まあ、いいや」と言ってプイッと部屋を出ていった。 「君じゃないの?」 「だから知らないって。何よあれ?」 「知らないよ、僕だって」  そして私はハッとした。  そそくさと出ていった幸之助の、締めたドアに目をやる。  まさか、本物のサンタクロース?  まさか、そんな…。  私は胸の奥が熱くなるのを感じた。  私の背中で妻が不適に笑った事も知らずに。
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