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君がそばにいる
愛情というものは、時の流れの中で形を変えてしまうものなのだろうか。
忘れないといけないのに、忘れられずに恋焦がれていた人が、二年ぶりに僕の元に戻ってきた。
僕らは以前と同じように、再び共に暮らしている。
僕の大切な人は、親に決められた相手と結婚し、上手くいかない結婚生活に痩せ細り、ボロボロになって帰ってきた。あまり食欲もなく、少しずつ食べられるものを食べ、眠れそうな時に眠ることをしながら体調の回復に務めている。
ミユは無事に離婚できたが、それまでに大学のゼミ仲間だったユウジ先輩やチカさんの協力があったからできたようなもので、僕だけでは到底ミユを助ける事はできなかった。
ユウジ先輩は離婚を見届ける前に事業の傾いた親戚の家を助けに行ってしまった。最後に会ったのはクラブに行った二ヶ月前だ。
「ミユ、これ好きだったよね?」
「うん。久しぶりに食べてみようかな」
スーパーで買い物をする。たったこれだけの事が嬉しい。麺類が食べたいというから、インスタントラーメンを買い物カゴに入れた。
「タッ君、それは夜食ね? ちゃんとしたの作るから、それ食べよ?」
「でも、身体しんどいだろ?」
「んー、一応主婦をしてたんだよ? これでも」
笑いながらミユは生麺をカゴに入れた。
「タッ君いつも学食かジンカフェでしょ? 私がいるんだから、夜くらいは作らせて。ね?」
不器用な僕が包丁なんか握ったら料理を作る以前に危ないのを、この人はちゃんと知っている。
「うん、じゃあ甘えるよ」
料理を作ってくれてもくれなくても、僕はミユが好きだ。だけど、彼女が戻ってきて、僕の生活がものすごく改善したのは間違いなかった。
「タッ君、はいこれ不燃ゴミ。今日だから出勤する時出してくれる?」
「うん。わかった」
ゴミの入った袋をいくつも受け取り玄関に置く。
僕は燃えるゴミ以外いつ出したらいいのかわからなくて、この二年間溜め込んでいて、ミユを驚かせた。
「良かったよ、詩集図書館までゴミが進出してなくて!」
詩集図書館というのはミユが詩集だけを集めた私設図書館で、玄関から一番近い部屋をそれに当てていた。
大笑いしながらミユは細い身体でゴミを分別した。もちろん僕が出したゴミだから、ミユの指示に従って必死に分別とゴミ出しをやった。
「スッキリしたねぇ!」
振り向いたミユは昔と変わらない笑顔だった。
ミユは僕と一緒に大学院に入ったが中退した。
「また詩の研究に戻りたいの。院を受け直さなくちゃ」
「願書受付これからだよ」
「うーん、今年受けるか、来年受けるか……。まず木下教授に相談しないと」
「そうだね」
僕はお茶を一口飲んだ。寒い季節には温かいお茶が美味しく感じる。
彼女は世界各地のお茶を飲むのが趣味で、淹れるのも上手い。今日は中国茶だった。
「このお茶、美味しいね」
「でしょ? 友達の家にあったの、引っ越しの餞別でもらったんだ。家族が送ってきたらしいんだけどお茶はあんまり飲まないらしくて。いいお茶だから喜んでもらっちゃった!」
油っこい食事の後はもっぱらそのお茶を飲むようになり、もらったお茶を飲み切った後も、ミユはその茶葉を買い求めて家に常備するようになった。
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