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「あ、的場くん」 「はい」 「午前中のクレーム案件の報告書、できてる?」 「できてます」 時任さんの目がちらっとずれる。 澤田を認めるとしばらく止まり、それから何か気付いて小さく頷く。 「そっか、もう昼か……今から食べに出る?その前に、報告書のデータこっちに飛ばしといて。見るから」 「あ、はい」 「悪いね、出掛けに」 「いえ」 真っ直ぐな視線が俺と澤田をもう一度横切って、かすかに下がる。目礼。 やはり少しも、笑わないままで。 意味のない愛想笑いなんて、しないんだよなぁ 時任さんが部屋に入っていくのを確認して、澤田がどこか、尖った気配を(まと)う。 俺は、遠ざかっていく彼女のまっすぐ伸びた背中を見ていた。 「ねー、あの人が、時任さん?」 「そう、今の直の先輩。知ってんの?」 「知ってる、てか有名人。学歴高くて優秀で、1年目から法務に入った女性なんてすっごく珍しいって。的場くん大丈夫?」 澤田の手が、肘のあたりにかかったのに気付いて視線を戻す。さりげなく腕を動かして、その手を外した。 童顔で体が小さくて威圧感がないせいか、普段からわりと気安く触られやすい。お前なめてんのか、とか思う。親しい友達ならいいけど、なんでそう勝手に距離詰めてくんだよ。
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