133人が本棚に入れています
本棚に追加
2
あのー、ですね、と、つい口を開いていた。
ふたりの視線がぱっと向かってきて、少し緊張した。
「初めて会った時、時任さん、笑わなかったんですよね」
なんの話?という顔で、ふたりに見返される。
片山さんも、時任さんに負けず劣らず人をまじまじと見るので、さすがに恥ずかしくなって、さりげなく目を伏せた。
「普通、初対面で自己紹介したらとりあえず笑ったりしませんか。でも、時任さんは全然笑ったりしなくて、ただ、じーっと見返された目が」
「目?」
「大きくて黒くて印象的だなと。で、一目惚れ。だから、どこがって言われるとちょっと言いづらいんですけど」
例えば優しいところ、とか。しっかりしているところ、とか。
私のどこが好き、なんて女子に聞かれた場合と同じように、そういう内面的な答えを、親友としては期待してるんだと思うけど。
時任さんは優しいし細やかだし仕事もできるし、そういう美点は沢山ある。だけど、どこが好きなのか、とか言われると、それらを数え上げるのは少し違う気がする。
俺が初めて、魅了されたのは。
囚われて、目が離せなくて、そのまま引きずられるように追いかけるはめになったのは、結局、あの日初めて見た、煌めいて際立つ、黒目がひどく黒い目だったと思う。
だけどきっとそんなのは、この人の期待する答えではないのだろうなと思いながら目を上げると、妙にぽかんとしている片山さんの顔があった。
束の間の無言。それから、目の前の人が、どこかぼやっと、口を開く。
最初のコメントを投稿しよう!