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「夏菜子ちゃんの目って、さあ?すごい、綺麗だよね、底光りするみたいで」
「え?ええ」
「髪も、真っ黒で、つやつやで、漆黒ってかんじ」
「そうですね」
「そっかぁ、的場くん、夏菜子ちゃんに一目惚れかー」
時任さんのことを溺愛する親友というその人が、目の前で、突然嬉しそうに笑み崩れるのを、不思議な気持ちで見ていた。右手に取り箸、左手に小皿を持ったまま。
ぎゅっと頑なに丸まっていた蕾が解けるように、ほころんで花ひらく。鮮やかに。
時任さんとはタイプが違うけれど、ひどく印象的に。
「夏菜子ちゃんに、控えめな良妻賢母的なろくでもない理想を押し付けるタイプだったらどうしてくれようかと思ってたけど」
にこにこと、片山さんが笑って続ける。初めの、やけに重い圧をかけてきた人とは別人のように穏やかに笑った彼女は、どこをどう見ても、まともできちんとした、華のある綺麗な大人の女性で、時任さんが手を焼くほどのダメな人には見えないけど。
「別に、良妻賢母が悪いわけでもないわよ」
「分かってる。でも夏菜子ちゃんには似合わない」
「私だって、べつに、やろうと思えばできるし」
「知ってる。でも、夏菜子ちゃんの魅力はそこじゃないんだって。自分で分かってないの?」
「そんなこと言われてもねぇ、亜紀はちょっとなぁ、刷り込みが激しいからなぁ」
「そんなことないって」
頼んだ酒が届いて、その人が手を伸ばす。
なんだったか初めて聞く名前のリキュールを、ロックで頼んでいた。
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