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時任さんはまたしばらく、いつもより気が抜けたような顔で見上げていたけれど、バッグから財布を出して千円札を取り出した。
「サンドイッチでも、牛丼でも、なんでも」
「了解です」
「的場くんは、どっちが好きなの?」
「まあ、牛丼ですね」
「だよね」
「もと運動部なんで、食う量多いんですよ」
「そうなんだ」
「見えないですよね」
「どうだろ、あんま考えたことなかった。なにやってたの?」
「小中高と野球部です」
そうなんだ、と、時任さんはもう一度言って、ちらっと目線を飛ばした。その先には峰岸さんが、先ほどと同じ姿勢でディスプレイに張り付いていた。
時任さんは、優しいふりなんかしない。気が効く女ってアピールも皆無。だけど、本当はとても細やかな人だと、一緒に働き始めてすぐに知れた。
「あの、ついでにね」
「あ、はい、声かけます。課長と主任は?峰岸さんも、牛丼派ですかね」
「たぶんね、一応聞いてみて。課長たちはいいよ、今いないし。ありがとう助かるわ、さすが体育会系。察しがいいね」
「あざっす」
わざとそんな言葉を使えば、時任さんは軽く笑った。ああなんだ、この人普通に笑うんじゃないか、と思ったし、笑った顔は普通に、可愛らしかった。
あの人に、どこか似てる。
そんなことを、ふと思い出していた。
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