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「的場くんさー、可愛いし、声も結構張れるし、舞台向いてると思うんだよね」
「いやです」
「えー、即答?少しくらい考えてよ。だってここ演劇サークルだよ?」
「俺は、大道具熱烈歓迎って書かれてたから入ったんです」
「でもさ、モブ役とかならさ、誰も注目なんかしないから、ね?」
「やりませんって」
なにが気に入られたのやら、これ以上言われ続けるようなら辞めることも考えねばと思っていた矢先、ひとりの女性の先輩が助け舟を出してくれた。
「もういいじゃん。顔が可愛いのと、やりたいこととは一致するもんでもないんだし」
「えー、だってさぁ、もったいないじゃん?的場くん、こんな可愛いのに。人目引くよ?」
「サークルなんて個人の自由なんだから、強要するもんでもないでしょ」
その人は3年で、実質サークルの最高学年。ヒロイン役を多く張っていた先輩ではなく、3番手くらいをやることの多かったその人は醒めた声で、でもはっきりと庇ってくれていた。
「真澄はさー、ドライだからー」
「ドライとかそういう問題じゃないって。本人の意思の問題。知らんよ?強要したらたぶん、的場くん辞めるよ?」
じっと見据えられた目にあっさり見抜かれて、なぜか、ひどくドキドキした。
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