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「もったいないじゃん、せっかくの大道具志望、貴重なのに」
あまり笑わない、というか感情が表に出にくいのか、どことなくとっつきにくいと言われている真澄先輩をまじまじと見返した。
きつい、無愛想だと言われがちなその人の目は真っ直ぐで、実はとても綺麗な人なんじゃないかとその時はじめて思ったし、さっきのドキドキについては見逃せないものがあった。
あ、俺、この人のこと好きなんじゃん、と気づくまでの間は、それからほんの数日だった。
大学1年の夏頃、好きな人ができた。彼女はいたことはあったけど、すごい好きだと思ったのは初めてだったのだから、たぶんあれは、遅れてきた俺の初恋、だったんだろう。
そして、例よって、初恋は実らない。俺の初恋も実らなかったけど、まあ、それをいまだに引きずっているわけでもない。
ただ、鮮やかに憶えているだけだ。
サークル活動の中心は3年までで、真澄先輩と一緒に活動できるのはあと半年ほどだった。その間、遅れてきた初恋を噛み締めるように、じっと静かに見ていた。
いくら初恋だからといって、別に中高のガキでもない。取り乱したり、挙動不審になったりもしていなかったと思う。
ただ、初めて自覚した想いは気恥ずかしくなるほど暖かく、持ち続けているだけでもほのかに幸せだった。
でも、そのまま何もしなければこの先どうにもならない、ということもよく分かっていた。
どうにもならないまま想い出に沈めるのも悪くはないと思ったけれど、それはそれで、性分に合わない気もしていた。
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