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先輩は媚びない。偽らない。取り繕わない。 だから誤解されているときもあるけれど。 真澄先輩はとても優しい。 そして。 真っ直ぐで、その存在は間違いなく綺麗だ。 19歳の、まだ寒い3月。 遅れてきた、でも鮮やかだった初恋を失って、だけどさほどの悲壮感はなかった。そういう意味では、なんとしてでも振り向かせたいみたいな気概は、なかったのだろう。 ただ、19歳になってようやくはっきりと、自分はこういう人が好きなんだなと自覚した。 真澄先輩は謝らず、恐縮することもなく、のびのびとありがとうと言ってくれて、それだけで充分だという気分になった。 あれから5年。 相変わらずなんとなく、何人かと付き合ったり別れたりしたけれど、あんな風に好きだと思った人はいない。 まだ、今のところは。でも、もう時間の問題だよな。 「牛丼、ここに置きます」 「あ、ありがとう。報告書……ちょっと待って、あと少し」 「はい、峰岸さんにも届けてきます」 時任さんは、今日もとてもくっきりとした輪郭で、目に映る。 だからもう、ほぼほぼ決まりだ。 見つけちゃったなぁ、こんなところで さぁ、今回はどうしようかな 峰岸さんのデスクへ歩き出しつつ、今回もやっぱりふたつ上の先輩じゃん、と気付いて、ひとりでにやけた。
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