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「小さくて地味な部署で暇そうに見えるだろ?ところがさー、実はそうでもないんだよなー。なぁ時任?」
「はい、まあ、でもやりがいはありますよ」
そう、やっぱり平坦な声で答えた、端正な横顔を見ていた。
特別笑いもしないけど、忙しすぎてうんざりって感じでもなさそうだな。
「そうなんですね、頑張ります。早く仕事覚えます」
当たり障りなく、そう答える。
「ん、期待してっから。でも無理はしすぎるな。ちゃんとフォロー入れるから」
峰岸さんはそう明るい声で言って、俺の肩をまたバンバンと叩いた。
法務、とざっくり言っているけれど、ここは実際には総務、法務、人事、経理が統合した管理本部で、俺の所属は本日から、管理本部法務課、になる。
法務課の構成人数は多くない。
課長を筆頭に、30代の主任、その下にこの峰岸さん、時任さん、そして5人目が俺。
「分からないこととかは、俺か時任に聞くといい。年齢も近めだし聞きやすいだろ。座席はそこな、時任の隣」
法務課では末席になるであろう、出入口に近いデスクがひとつ空いていた。
自分の名前が話題に上がったのを聞いてか、時任さんがまたちらっと目を挙げる。
きつい、というのとは少し違う、強い視線が一瞬向かってくる。
黒目が、黒いな。
ああ、髪も黒いせいか?
時任夏菜子という人は、ひどく、縁取られた輪郭が濃いイメージがした。
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