吾輩は幽霊である

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 キツい!キツすぎる!これは致死量の共感性羞恥だ!命の危機だ!  ああ、自己紹介が遅れた。前のやつは一ページまるまる自己紹介にしやがったが、私は簡潔に済ませよう。  私は、前のページのあいつの妹、エナだ。以上。  あ、やっぱもうちょっと自己紹介しよ。  私は、母のお腹の中で死んだ。それが今から十年くらい前だが、お兄がとんだ阿呆に育ってしまったものだから、お母さんが可哀想で天国から戻ってきたのだ。  そして今、お兄の頭の中を覗いてみた。うん。  あなたの病気は、重度です。病名は、厨二病とでも言いましょうか。  さっさとくたばれ歩く病原菌。厨二病患者は喋るな、病気が移る。お母ちゃんが、腕に包帯巻くお前を悲しそうに見ているのを知らないのか?怪我もなんもしてないのに包帯無駄遣いすんじゃねえ!  ──スッキリした。日頃のストレスが根こそぎなくなった気がする。  これは、私の出番だ。  厨二病という、治療法のない病にかかってしまったお兄を助けるため、私が兄の厨二心をぶちのめさなければいけない。  私が治療をするのだ。  一応、厨二病治療のプロフェッショナルとして、その界隈では派手に名を馳せた私だ。生前は、千をも超える厨二病患者の治療に携わってきたのだ。  ──ごめん、嘘。  でも、あのお兄を放っておくわけにはいかない。あのままだと、絶対に友達ができなくなる。……もうすでに友達なんていないのかもしれない。だとしたら、尚更私はお兄の友達作りに尽力しなければいけないだろう。  いやしかし、あいつの友達などできるのか……?でも、そこが私の力の見せ所じゃないか。  このまま厨二&ぼっちでいたら、青春を全てドブに捨てることになる。  私が楽しめなかった青春を、お兄には心の底から楽しんでほしい。それが、私の望みだ。  それに、絶対大人になった時に「うぐああああ、あの時の俺はどうしてあんなことを……恥ずかしくて死にそうだ」と、なるはずだ。  放って置けないな。妹としてお兄を救ってやらねば。  私は、空を飛んでお兄の高校を目指す。 「あそこだ!」  浦島市立亀ノ甲羅高校。偏差値50。良くも悪くもない、至って普通の高校である。  私は、飛びながら校舎の中へ入った。  事前に調べておいたところ、お兄のクラスは二年三組だということが分かった。天国には情報が集まるのだよ。  私は、二年三組を探す──あった。  心臓の鼓動がやけに速くなる。足取りが軽くなる。 「……お兄」  その声は、誰にも聞こえるはずはない。幽霊だから。もちろん、お兄にもその声が聞こえるはずはない。  やけに伸びた清潔感のない髪の毛。ニキビができた肌。骨が歪まないか心配になるほどの猫背。  私は、十年ぶりにお兄にあった──いや、生まれて初めて、お兄に会った。      
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