吾輩は幽霊である

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 私はお兄の席へ向かう。  今は昼休みだというのに、お兄は相変わらず本を読んでいる。頭いいアピール。ドエトエフスキーなんて読んで、自分に酔ってるんだ。  もちろん、そんなヤバいやつに話しかける変わり者などおらず、お兄はぼっちだった。  ……もう。お母ちゃんを悲しませるようなことはするなって。友達作れよ。 「お兄、友達いないの?」  話しかけてみても、返事はない。幽霊と人間は、互いに干渉できないからだ。  私は深いため息をつく。  お兄を救おうなんて意気込んで言ってしまったけれど、どうすれば良いのだろうか。向こうがこっちの存在に気づけないのだからどうしようもないのだ。 「──あ、そうだ」  幽霊は人間にとりつくことができるんだった。  取り憑く、っていうとなんか人聞きが悪いけれど、人間の体を少しの間借りるだけだ。  私は、出来るだけ頭の悪そうな人間を探す。自分より知能の低いものでないと取り憑くことができないというルールがある。あと、意志の強い人間にも取り憑きにくいので、強くなさそうな人間を選ぶ。  私は、数人の男子の集まりの中の一人をターゲットに決めた。  こいつの体を借りてお兄に話しかける。すると、お兄は本を読むより友達と話す方が楽しいということに気づいてくれるだろう。 「ちょいと失礼」  私は、その男子の首を掴んだ。そして、その男子の魂を体から引っ張り出す。中から、ふわふわとした人型の綿菓子のようなものが出てきた。これが人間の魂である。  少しの時間なら、放っておいてもいいか。そう思って、魂をその辺に放り投げる。すると、その魂は教室の上のあたりをふわふわと漂い始めた。 「おい、お前どうした?顔色悪いぞ」  私の憑依した人間に、友達と思しき男子が話しかけてきた。 「大丈夫。ちょっと貧血でね」  私がそう言うと、「気をつけろよ」と一言言ってさっていった。  よし、喋れる。人間に取り憑くのは久しぶりだけど、ちゃんと上手くいっているようだ。  私は手を握ったり開いたりを繰り返す。体もきちんと動くようだ。  それでは、お兄に話しかけるとするか。お兄と話すのは生まれて初めてだから、緊張する。 「なあ、お前いつも何読んでんの?」  そう言って、お兄の本を指差す。すると、お兄は暗黒微笑(笑)を浮かべてこちらを向いた。大分……気持ち悪かった。お兄と話せた嬉しさと気持ち悪さが混ざってスクランブルエッグになっている。
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