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「君にはちょっと……難しすぎるかもね。まあ、俺はいつも江戸川乱歩とか、夢野久作とか読んでるからあんまり難しいとは思わないな」
「……そうなんだー」
一つの鉤括弧の中で、『自分は頭いいからこんな難しい本を読めるんだよ自慢』と『昔の文学を読んでる自慢』の二つの自慢をするお兄は流石だな!
お前はもう重症病床行け。厨二病の進行が著しい。
私は気持ち悪い気持ちを押し殺しつつ、会話を続けようと努力する。
「ねえ、おすすめの本とかないの?」
「あるけど、多分君には早いよ。あと、俺今、本読みたい気分なんだけど」
「ああ、ごめん」
うっぜぇええ。なんだよ、人がせっかく親切に話しかけてやってんのに、それはないだろぉぉぉ?
ああ、これは……「話しかけて頂いた」じゃなくて「勝手に話しかけられた」って言う認識をしてる感じだろうか。性格が悪い。
人とは話したくないって言うキャラを守るのを頑張ってるのか。ご苦労なこった。
私は、諦めてお兄の席を離れた。どうしようかと考えていたその時。
「ねえお嬢さん」
と、後ろから声をかけられた。
振り向くと、女子生徒が立っていた。
美しいロングの黒髪を靡かせているその様子は、いかにも美人と言った風貌で合った。お淑やかな雰囲気を纏っていて、その立ち振る舞いは落ち着いていた。
今、『お嬢さん』と言ったか?私はいまこの男子生徒に取り憑いているはずなのに──こいつ、見えている!
「これ、貴方がやったんでしょ?」
そう言って、右手を差し出す、そこには、この男子生徒の魂があった。私がさっきその辺に放り投げたやつだった。
「君……何者なんだ?」
「あら」
そう言って、すました顔で私を見る。
「私は、何者でもないわ。至って普通の女子中学生。もちろん、生きている人間よ」
私が幽霊であることも、この子には完全にお見通しのようだった。
ああ、人間界にはいろんな人間がいるんだな。そう思った直後。
「悪き幽霊よ、立ち去りなさい。その人間の体は返してもらうぞ」
「──うぐっ」
吐き気。吐き気が喉を逆流して口の中に溢れ出るようだった。胃が手で握り潰されているような、とんでもない痛み。
幽霊は痛みを感じないはずなのに。いや違う。これは痛みじゃなくて不快感だ。
祓われる時に感じる、とてつもない不快感。
気づいたら、私の体は宙に浮いていた。あの男子生徒の体から、引っ張り出されたようだ。
すると、あの女子生徒は持っていた魂を男子生徒の口にねじ込んだ。ちょっと可哀想なくらい無理やりねじ込んでいた。
「……うう、俺何をしてたんだ?」
「北沢さん、さっき先生が呼んでたわよ」
「え、マジ?この前花瓶割っちまったんだけど、それかなぁ」
そう言って、北沢と呼ばれていた男子生徒は教室から出て行った。
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