吾輩は幽霊である

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「さて、貴方を祓わなければ」 「ちょっと待ってよ!」 「待たない」    その女子生徒は、ゆっくり私の方へ近づいた。私はなぜか動けなかった。なぜかは分からないが、そうこうしているうちにその女子生徒は私のすぐ目の前まで迫っていた。  両手で印のようなものを結ぶ。そして、右手の人差し指を私に向ける。  ──指鉄砲を撃つときみたいに、こちらに向けて構える。 「ばっきゅーん」 「──!」  飛んだ。私の体が。  ぶっ飛ばされた。私はなすすべもなく空中をぶっ飛んだ。私は空気を切り裂きながら空を舞う。  マッハ20くらいで飛んでいるのではと思うほどであった。今なら殺せんせーと競争できる。  そのまま教室の窓をぶち破り、(幽霊なのでぶち破れない。これは比喩だ)グラウンドで運動する野球部の遥か上を飛び、いつのまにか地面に叩きつけられていた。  どっがーん。  衝撃で、体が何回か地面の上をバウンドする。  幽霊なので音はならないが、その代わりに耳鳴りがした。  痛みはない。でも、凄まじい量の不快感が私を襲う。  彼女が私を祓うことはできなかったようだが、その代わりにかなりのダメージを受けた。天国でぬくぬく過ごしてきた私には、あれは少しきつかった。 「なるほど。霊を祓う人間がいるのか」  彼女は私がいた。つまりはそういう力を持った人間なのだろう。  せっかく頑張ってこの世まで来れたのに。お兄に会うために頑張ってたのに。 「あーあ、どうしよう。お兄の厨二病治療計画がこんな早くに行き詰まってしまうなんて」  私は天を仰ぐ。流石に、天国はすごく高いところにあるので見えることはなかった。  ちょっと……帰りたいって思っちゃった。 「お兄ともっと話したかったよー」  私は空に向かってため息を吐いた。  どこまでも透き通るその空は、私を嘲笑っているようだった。
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