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こと、10台前半に見えるアオイは、その手の犯罪者に狙われやすい。
(子供を狙った犯罪者か?)
だからアオイは口を拭い、慎重に男から距離を取る。
「……殺してません。昏倒しただけ」
「冷静な判断もますます素晴らしい。まあ勝負の場所にしては、ここはちょっと出来すぎているけどね」
アオイが警戒して見せても、男は犬を抱きしめ寝転がったまま。腕を高く掲げ、壊れた柱を指さした。
「崩れた地下駐車場、一定間隔で柱も残っていて逃げ隠れしやすい。もちろん君は逃げる必要もなかったわけだけど。それでも”もしも”、を想定して戦うのは賢いやり方だ」
ここはかつて、ビルの地下駐車場だったのだろう。
といってももう、ビルは存在しない。屋根も崩れて久しい。残っているのは蔦と雑草にまみれた柱だけ。
コンクリートはすでに崩れ、中の鉄骨がむき出しになった柱。それが何本も林立し、地面は坂道を描いてゆるく上に続いている。もちろんその途中で道は途切れて、断絶した先には見事な闇夜と星空が広がっているのだが。
スーツ男はそんな柱の一本に、背中を押し付けるようにして転がっている。
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