1・出会い

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 その恰好のまま、起き上がる気配もない。ただ、なにか言いたげにアオイを見つめていた。 「こういう時、なにか声をかけるのがマナーだと思うんだけど」 「……」 「あ、犬が気になる? これはわけありだ。趣味で持ってるわけじゃない」  男の言葉に反論するように、犬が不満げに甲高く鳴く。  その声を聞いて、アオイは眉を寄せた。高音の鳴き声の中にノイズが混じって聞こえたのだ。それは不自然な鳴き声……本物の犬ではない。 「御名答……これは犬型のロボットだ。正式名称はそんな画一的な名前じゃないけどね」  アオイの心を読んだように、彼は犬の頭をぽんと叩く。犬の瞳孔が、宝石のように輝いて広がった。本物にそっくりすぎて、逆に不自然。なるほど、これはよく出来たロボットである。 「とはいえただの人形じゃないんだ。化石みたいに古い言語のプログラムコードで動く。笑わないでくれよ、古い方が却ってシンプルで有能だ。それである程度、自由に動くようにプログラムされてて……」  犬の体は焦げ茶色の長い胴。そこに手足が飛び出している。そして抱かれた格好のまま短い手足がジタバタとせわしなく動き、拘束から逃れようとしている。
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