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「ごめんね」 先輩の口が確かにそう動いた。
えっ? ごめんねって……ダメ……。
「えっと、川橋さん。僕はもう好きな娘いるんだ。それに来月からの高校進学に合わせ家族と東京へ引越しちゃうから、君とは付き合えない。ごめん。それじゃ!」
先輩はそう言うと大きく手を振って走り去って行った。
その後姿を見つめる私の頬を涙が流れていく。もちろん振られる可能性も高い事は分かっていた。でも、それでも……。
「川橋さん、ゴメン」
振り返った義信君が頭を下げている。よく見ると彼の瞳にも涙が溢れている。
「なんで、義信君が泣いているのよ?」
「だって、兄さんが酷いから。僕だったら絶対OKなのに……」
男の癖に泣かないでよ。それに僕だったらOKって何? と思いながらも私の涙も止まらなかった。
それがあの、私にとって特別な一日の記憶だった。
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