第2話 かわいい子にメスガキは上等すぎる

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 すぐさま図に乗ったメスガキどもが舐めたことを言い始める。 「やっぱタケルくん、勉強教えてくれるんだ?」 「ホント、やっさしい~」 「どっかの自称イケメンは見習えよな~」  自称なんてしてねーよ。 「勝手にしゃしゃり出てきて、あたしたちとタケルくんのトーク邪魔してさぁ」 「勘違いしたテキトーなこと言って、タケルくん困らせてるんだから」 「ほ~んと、はっずかし~。何しにきたんだよってかんじ~」 「ザ~コ。カレシづらして恥かいてやんの。ホント、ザ~コ」 「ザ~コ。こっちが恥ずかしくなるよ。ザ~コ、涙目でウケる」 「ザ~コ。みじめに失敗して顔マッカだよ? ザ~コ、生きてて恥ずかしくない?」  世のメスガキの例に漏れず、こいつらは調子に乗ると好き勝手に罵ってくる。  私のイライラは、自分の失敗を棚に上げてかなり限界に近付いていた。  それでも極めて冷静な態度で言い返す。 「ま、いいけど。どーせ、お店は私と店長で回せるし、タケルは貸してやる」 「え? ミドリが決めるの?」  タケルが不安そうに見上げてくるけれど、ここでメスガキどもから目を逸らしてはならない。 「来ました、敗北せ~んげ~ん!」 「悔しい? 自称イケメン王子、ザコすぎて草っ」 「泣きそう? 泣いちゃう? 年下に負けて泣いちゃう?」  私はすべての戯れ言を聞き流し、メスガキへの反撃を開始する。 「で、オマエらはいつまでこの店にいられるんだ? お塾に行くんじゃないのか?」  三つ子どもが顔を見合わせる。  脳が軽いので、そんな当たり前のことすら忘れていたのだ。 「まだ一時間あるよ。みんな、いつも五時にお店出るもんね」  そう言ったのは優しすぎるタケル。  そんな優しさは私だけに向けたらいいものを。 「タケルくん、あたしたちのスケジュール覚えてくれてるんだ?」 「愛されてるよ、あたしたち」 「あたしも愛してる、タケルくんっ!」  勝手にサカるメスガキどもに、しらーっとした顔を作りつつ言う。 「で、それまでタケルは勉強見てやると。そこのシートに座るわけだ?」  こいつらは三人組で、今いるテーブル席は二人がけのシートが向かい合わせにある四人席。  つまり、片側にひとり座れるスペースがある。当たり前だ。 「そうそう! 早くこっち来てよ、タケルくんっ!」  メスガキのひとりがケツを奥へやり、空いた場所をバシバシ叩く。  タケルが流されるまま座ろうとするので、その肩を掴んで止める。 「え、なにミドリ?」  振り返った我が守るべき相手の顔は見ず、駆逐すべき敵にあえて優しく言う。 「オマエ、ラッキーだな。隣にタケルが座るなんて、オマエだけラッキーだ」 「え!?」  声を出したのは並んで座っているふたり。 「ちょ、まっ! ミカちゃん、ズルくない?」 「抜け駆けじゃんっ!」 「し、しかたないし。こっちしか空いてないし」  一瞬で崩壊する姉妹の絆。  もうこのまま放置でいいだろう。  だけれど、我がかわいい幼馴染みは優しすぎた。 「ケ、ケンカしないで、三人とも」  醜い骨肉の争いを仲裁しようとしている。  これ以上よけいなことを言う前に……と、間に合わない。 「さ、三人で交代交代しよう?」  その妥協案は、フツーなら誰だって思い付く。  欲にまみれたメスガキどもなら、そんなありきたりの案すら頭に浮かばなかったのに。 「そ、そっか、そうすればいいんだ!」 「ええっ? それって面倒じゃない?」 「ミカちゃんの意見は却下っ!」  二対一の多数決で争いは収まるのか?  そんなこと、この私がさせる訳がなかった。 「三等分か~。つまり、ひとり二十分?」 「そうなるね」  うなずくタケルに顔を向け、わざとらしくメスガキどもに聞こえるように言う。 「たったの二十分か~。こんなにかわいいタケルが隣に来てくれても、たったの二十分しかいてくれないのか~」 「な、何が言いたいん?」  頭の悪いメスガキどもの方を見ると、これから起こる事態を想像できずに思いっきり焦っていた。 「いや、フツー裏切るだろ? 馬鹿正直に席替えしたら、このかわいいタケルから離れないとなんだぞ? テキトーにごねまくれば、少なくともその間はタケルが隣にいる。最初に隣を確保できた奴が優勝だ」 「ミ、ミカちゃんっ!?」 「あ、あたしそんなことしないし~」 「じゃんけんしよ! 順番はじゃんけんで決めよ!」  姉妹の絆は再び散り散りに。  私はさらにかき乱す。 「じゃんけんか~、頑張れよ~。勝った奴がタケルを独り占め。もし、そいつが裏切らなくても二番目の奴が裏切らないとは限らない。最後の奴まで回ってくるかな~」 「ぐ、ぐむむむ……ミキちゃん、ミカちゃん、裏切りはなしだよ!?」 「そーゆーミナちゃんも裏切らない? この前、ひとりだけプリン食べたよね?」 「あ、あれは……ママが一個しか持って帰らなかったからっ!」 「ミキちゃんは前に『たぬのしん』のグッズのシークレット当てたから遠慮しなよっ!」 「あんなの三週間も前じゃん!? それ言うなら、ミカちゃんは昨日の唐揚げ最後の一個食べたよね?」 「あ、あの……みんな、仲よく……」  オロオロしているタケルの肩を引っ張りよせる。 「ほっとけ、タケル。姉妹の仲むつまじい会話の邪魔するな」 「仲むつまじいの、あれ? ケンカしてるみたいに……」 「じゃれ合ってるだけだって。カウンター行くぞ、タケル」  そうして一時間十五分が過ぎ去り、欲深きメスガキどもは何も得ることなく塾に遅刻した。  ザ~~~コ!
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