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たとえば、私とタケルがカフェに入ったとしよう。
店員には普通にカップルとして認識される。ここまではいい。
だけれど、常にタケルがカノジョで私がカレシとして認識される。常にだ。
背が高くて濃いめの顔立ち。肩幅もまぁまぁ広い。
ケツはでかいがチチはささやか。
癖のある黒髪は、ショートが一番しっくりくる。
見た目だけでなく、性格も好みもかわいいの正反対。
中高とも制服はスカートなのに、学校どころか近所でもイケメン王子で通っている。
そんな自分に似合う格好をしていたら、自然と持っている服は男みたいなのばっかりになるというもの。
オシャレ女子大生・結子さんの指摘は、実に的確だった。
のけぞるみたいに立つ結子さんが、片手を自分の胸に当てて宣言する。
「わたしなら、タケルくんにぴったりなフリフリを貸し出せるっ!」
「む、むむぅ……」
確かに、私の手持ちではタケルのかわいさを引き出せる女装は難しいかもしれない。
自信満々なのが腹立つが、結子さんの提案に乗るべき?
「ていうか、ユイちゃんもフリフリなんて着てこないじゃん?」
夏希さんの指摘。
言われてみれば、バイトに来る結子さんが着ているのは、オトコが好きそうな清楚系の服ばかりだ。
「ふふ……オンナに歴史あり。高校時代のわたしは、一時期ロリィタにドハマりしてたの。ピンクもゴシックもあるわよ」
「黒歴史的な?」
「いいえ、夏希さん。あの頃のわたしを、そんな言葉で否定なんてしないわっ」
「おみそれしやした」
ロリィタファッションか。
結子さんなら難なく着こなせたであろう。
そして、タケルならもっと着こなせるはずだ。
「というわけで、みんなでわたしの家に来ない? ちょっと探さないとだけど、かわいいフリフリが売るほどあるわよ」
うーむ、いい話ではある。いい話のはずだ。
なのに、どこか引っかかる。
どこが?
「結子さん、その服って自分で着ていたものですよね?」
「ええ、そうよ。どれも何度も着てるわ。あ、でも、マメにクリーニングに出してたから清潔よ」
結子さんが着たことのある服か……
それをタケルが着る?
斜め下を見下ろすとタケルも見上げてきた。
あいかわらずのかわいい顔立ち。
私の心は決まった。
顔を上げると非情に告げる。
「やっぱ、この話はナシで」
「なんでっ!」
「いまさらっ!!」
男子高校生の女装に欲情している成人女性ふたりが私にしがみ付く。
私はそいつらを「ええいっ」と蹴散らし、タケルの手を引っ張ってバイト先の喫茶店を出た。
タケルと並んで家路につく。いつも通り、手を繋いで。
おどおどと幼馴染みが訊いてくる。
「女装はもういいの?」
「ああ。たけちーも反省しているみたいだしね」
「なんで? みーちゃん、俺の女装は見たくないの?」
「え? たけちー、女装したかったのか?」
意外なことを言い出した。
「そんなことない! そんなことないよ!」
あわあわと両手を振るタケル。私の片手も振り回し。
しばらくして落ち着いたらしいタケルが言う。
「みーちゃん、急に態度変わったのが不思議で」
「私はいつだって気まぐれだよ」
「みーちゃんじゃない女の人の服を着るのがイヤだったの?」
時々鋭いな、こいつ。
「うん。なんかヤだった」
私がブーたれ気味に言うと、タケルが手を握る力をぎゅっと強くした。
こっちからも握り返す。
「ふふ、みーちゃんってば」
「うるさい」
隣でにこにこしてる幼馴染み《オトコ》がかわいすぎる。
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