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我らが「純喫茶ふたかみ」は、基本ヒマなくせに店員が四人もいる。
近藤夏希さんは二十六歳のフリーター。
癖毛を金色に染めて言動は雑。オフの日は、オイルで汚れたツナギを着てデカいバイクをバラしている。
どう見てもヤンキーだ。
故に、ワンチャンヤレそうとサカった男子中高生どもに狙われている。
ご本人、下い話が大の苦手のウブな処女なのに。
坂之下結子さんは二十歳。四年制の大学でバリバリの理系をやっている。
黒髪ロングで整った顔立ちな上に清楚系のファッション。
お家柄のよろしさが、そのイカれた金銭感覚からにじみ出ていた。
県境をまたいだ大学から、わざわざ男どもがやってくるほどの人気ぶり。
近所のオジサマ、オジイサマたちからもたいそう好かれていらっしゃる。
ご本人、男が蟲より嫌いなのに(なんで男ばっかりな理系に進んだ?)
そして私、寒林碧は十五才の高校一年生。家から歩いて行けるそんなに頭のよくない県立高校でヒマを潰している。
背が高くてショートヘア。別に狙っている訳ではないけれど、自然体で生きていたら周りからイケメン王子と呼ばれるようになっていた。
この喫茶店では、オバサマ方から舐めるような視線をよく受けている。
私は幼馴染みにしか興味がないのに。
そんな女衆を差し置いて、我らが喫茶店の看板娘は高校生男子・大石武くん十六才だった。私の幼馴染み兼クラスメイトでもある。
ちっこくってひょろくってお目々ぱっちりで、男子にしては長めの髪はさらっさら。
そこらへの小動物よりよっぽど小動物だ。
かわいいくせに自分のこと「俺」とか言っちゃうところがまたかわいい。
看板娘たるタケルは、幼稚園児から後期高齢者まで、老若男女問わず愛されてリピーターを獲得しつづける稼ぎ頭だ(店長いわく)
タケルがバイトをしたがった時、私は断固反対の立場だった。
この子のかわいさは私だけが知っていればよく、接客なんてものをさせて他人の目に晒すなんてあるまじきこと。
そのことを、私の煩悩を隠しつつ幼馴染みに伝えたが、ついに届かず、必ず私も付き添う条件で渋々妥協した。
そういう条件付きなので、タケルと私は常に同じシフトなのである。
不埒なお客が現れないか、見張っていないといけない。
不思議なことに、キレイどころ三人と圧倒的看板娘をもってしても、「純喫茶ふたかみ」はヒマであり続けた。
言い換えると、どれだけメンツが揃っていようとも、こんな田舎では、今時「純喫茶」などとこだわるお高い値段設定で、お値頃価格で親しまれるコーヒーショップのチェーン店の向かい側で商売するのはキツいのだ。
それは私にとっては好都合で、タケルが好色な視線の餌食になることは危惧したほどではなかった(あるのはある)
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