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すぐさま図に乗ったメスガキどもが舐めたことを言い始める。
「やっぱタケルくん、勉強教えてくれるんだ?」
「ホント、やっさしい~」
「どっかの自称イケメンは見習えよな~」
自称なんてしてねーよ。
「勝手にしゃしゃり出てきて、あたしたちとタケルくんのトーク邪魔してさぁ」
「勘違いしたテキトーなこと言って、タケルくん困らせてるんだから」
「ほ~んと、はっずかし~。何しにきたんだよってかんじ~」
「ザ~コ。カレシづらして恥かいてやんの。ホント、ザ~コ」
「ザ~コ。こっちが恥ずかしくなるよ。ザ~コ、涙目でウケる」
「ザ~コ。みじめに失敗して顔マッカだよ? ザ~コ、生きてて恥ずかしくない?」
世のメスガキの例に漏れず、こいつらは調子に乗ると好き勝手に罵ってくる。
私のイライラは、自分の失敗を棚に上げてかなり限界に近付いていた。
それでも極めて冷静な態度で言い返す。
「ま、いいけど。どーせ、お店は私と店長で回せるし、タケルは貸してやる」
「え? ミドリが決めるの?」
タケルが不安そうに見上げてくるけれど、ここでメスガキどもから目を逸らしてはならない。
「来ました、敗北せ~んげ~ん!」
「悔しい? 自称イケメン王子、ザコすぎて草っ」
「泣きそう? 泣いちゃう? 年下に負けて泣いちゃう?」
私はすべての戯れ言を聞き流し、メスガキへの反撃を開始する。
「で、オマエらはいつまでこの店にいられるんだ? お塾に行くんじゃないのか?」
三つ子どもが顔を見合わせる。
脳が軽いので、そんな当たり前のことすら忘れていたのだ。
「まだ一時間あるよ。みんな、いつも五時にお店出るもんね」
そう言ったのは優しすぎるタケル。
そんな優しさは私だけに向けたらいいものを。
「タケルくん、あたしたちのスケジュール覚えてくれてるんだ?」
「愛されてるよ、あたしたち」
「あたしも愛してる、タケルくんっ!」
勝手にサカるメスガキどもに、しらーっとした顔を作りつつ言う。
「で、それまでタケルは勉強見てやると。そこのシートに座るわけだ?」
こいつらは三人組で、今いるテーブル席は二人がけのシートが向かい合わせにある四人席。
つまり、片側にひとり座れるスペースがある。当たり前だ。
「そうそう! 早くこっち来てよ、タケルくんっ!」
メスガキのひとりがケツを奥へやり、空いた場所をバシバシ叩く。
タケルが流されるまま座ろうとするので、その肩を掴んで止める。
「え、なにミドリ?」
振り返った我が守るべき相手の顔は見ず、駆逐すべき敵にあえて優しく言う。
「オマエ、ラッキーだな。隣にタケルが座るなんて、オマエだけラッキーだ」
「え!?」
声を出したのは並んで座っているふたり。
「ちょ、まっ! ミカちゃん、ズルくない?」
「抜け駆けじゃんっ!」
「し、しかたないし。こっちしか空いてないし」
一瞬で崩壊する姉妹の絆。
もうこのまま放置でいいだろう。
だけれど、我がかわいい幼馴染みは優しすぎた。
「ケ、ケンカしないで、三人とも」
醜い骨肉の争いを仲裁しようとしている。
これ以上よけいなことを言う前に……と、間に合わない。
「さ、三人で交代交代しよう?」
その妥協案は、フツーなら誰だって思い付く。
欲にまみれたメスガキどもなら、そんなありきたりの案すら頭に浮かばなかったのに。
「そ、そっか、そうすればいいんだ!」
「ええっ? それって面倒じゃない?」
「ミカちゃんの意見は却下っ!」
二対一の多数決で争いは収まるのか?
そんなこと、この私がさせる訳がなかった。
「三等分か~。つまり、ひとり二十分?」
「そうなるね」
うなずくタケルに顔を向け、わざとらしくメスガキどもに聞こえるように言う。
「たったの二十分か~。こんなにかわいいタケルが隣に来てくれても、たったの二十分しかいてくれないのか~」
「な、何が言いたいん?」
頭の悪いメスガキどもの方を見ると、これから起こる事態を想像できずに思いっきり焦っていた。
「いや、フツー裏切るだろ? 馬鹿正直に席替えしたら、このかわいいタケルから離れないとなんだぞ? テキトーにごねまくれば、少なくともその間はタケルが隣にいる。最初に隣を確保できた奴が優勝だ」
「ミ、ミカちゃんっ!?」
「あ、あたしそんなことしないし~」
「じゃんけんしよ! 順番はじゃんけんで決めよ!」
姉妹の絆は再び散り散りに。
私はさらにかき乱す。
「じゃんけんか~、頑張れよ~。勝った奴がタケルを独り占め。もし、そいつが裏切らなくても二番目の奴が裏切らないとは限らない。最後の奴まで回ってくるかな~」
「ぐ、ぐむむむ……ミキちゃん、ミカちゃん、裏切りはなしだよ!?」
「そーゆーミナちゃんも裏切らない? この前、ひとりだけプリン食べたよね?」
「あ、あれは……ママが一個しか持って帰らなかったからっ!」
「ミキちゃんは前に『たぬのしん』のグッズのシークレット当てたから遠慮しなよっ!」
「あんなの三週間も前じゃん!? それ言うなら、ミカちゃんは昨日の唐揚げ最後の一個食べたよね?」
「あ、あの……みんな、仲よく……」
オロオロしているタケルの肩を引っ張りよせる。
「ほっとけ、タケル。姉妹の仲むつまじい会話の邪魔するな」
「仲むつまじいの、あれ? ケンカしてるみたいに……」
「じゃれ合ってるだけだって。カウンター行くぞ、タケル」
そうして一時間十五分が過ぎ去り、欲深きメスガキどもは何も得ることなく塾に遅刻した。
ザ~~~コ!
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