消えたメロディ、電子の海

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 裂ケルが消えたのはつらいけど、遺してくれた曲たちを大切に聞こう。彼のことを、忘れないために。  僕はそんな結論に達していた。  宿題もやる気が起きなくて、自室で曲を聴きながらSNSを開く。  トレンドに信じられない言葉が上がっていた。 「裂ケル復活」 「えっ!」  僕は驚く。本当か? デマじゃないのか?  トレンドワードをタップすると、真っ先に少し長文の投稿が出てきた。アカウント名は「裂ケル」。本物か? と僕は一瞬疑う。 「裂ケルです。いきなり動画を削除してしまい申し訳ありません。誹謗中傷に傷ついて、自棄になってしまいました。お詫びと言ってはなんですが、新曲を投稿しました。良かったら聴いてください」 「は……?」  あまりの驚きに喜びの感情とは反対の怒りの声が出てしまう。一日に二曲ってこと? 裂ケルとしては前代未聞だ。  もちろん聴くに決まっていますとも。アカウントをフォローして、動画サイトのリンクをタップする。 「……」  ……あのさぁ。あなたは一体どこまで最高なんですか?  また怒りが出てきてしまうくらいには、僕は感動していた。Arとは違う、いや、今までの曲とも違うかなり激しい曲調の曲。怒りと絶望を混ぜたような、アップテンポの曲。和風のキャラクターたちが舞を踊っている一枚絵。タイトルは「雷撃」。  いつもとは違うけれど。彼は帰ってきたんだ。帰って、きたんだ。 「うぅ……」  僕は涙を拭っていた。高評価を押す指が震えている。  SNSの方もいいねを押す。リプライを送る。失礼じゃないかな。大丈夫かな。どうせ見ていないか、僕みたいなただの一ファンのリプなんて。 「裂ケルさん、帰ってきてくれてありがとうございます。今までもこれからも応援しています。大好きです!」 「送っちゃった……」  心臓がどきどきしている。やっぱり失礼だったかな。  そのときだった。通知が来たのは。 「裂ケルさんがあなたの返信をいいねしました」 「へっ!?」  手で口を抑える。そんな、そんなそんなそんなこと! 嘘でしょ!  裂ケルがいいねした。つまり、裂ケルは生きている。ってことは、裂ケルは僕と同じ世界に存在しているわけで。  生まれてきて良かった。そして、生まれてきてくれてありがとうございます。そう思った。  雷撃をループ再生しながら、僕はにこにこと笑顔になる。 「最高か……」  口から感想が漏れる。宿題、やるか。好きな曲があるだけで、なんでもやる気になれる。音楽ってすごい。  僕は机に向かう。白いヘッドホンを着けたまま。裂ケルの新曲を聴きながら。
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