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家に帰れば祖母の甘い言葉から逃れられない。それが嫌で嫌で仕方なかったのにその日は違った。
「ばあちゃん風花のこと信頼してるからね」
「……っ、うん」
いつもと同じ言葉。いつもと同じ、はちみつみたいにどろどろとした甘ったるい味がするはずだったのに、その時の味は酷く、信じられないほど酷く苦かった。よくあの時の私は彼女に向かって口角を上げていられたと褒める。口元を抑えないで、不審がられないでよかったと胸をなでおろす。
嬉しいこと、小さな楽しみを見つけた日になんでこんなことが起きるのだろうと、初めてこの世にいるかわからない神様を呪う。誰にも気づかれないように、真っ暗の部屋の中でなんでこうなってしまったのだと声を出さずに泣く。泣きながらふと、思い出した。
「違う、これ、さっきのが、初めてじゃない。なんであの時、私、美悠ちゃんの言葉、しょっぱいなんて感じたの……」
あの時から私のフラジールはそうなっていたのかもしれない。そんな小さな変化に気が付いてしまえば噓だと、信じたくなかったものがストンと腑に落ちてしまう。
「これだから、物わかりの良い私は、嫌い……」
暗闇の中降り始めた雨は私の小さな願い事すら聞いてはくれなかった。
フラジールは少しだけ酷くなった。簡単に言ってしまえば、これまでは嘘をついているかがわかるぐらいだったのにその時の言葉の感情まで味覚として出てくるようになった。
このことはすぐに両親にスマホのメッセージで連絡。祖父母には言わなかった。理由の一つは、彼らは私にフラジールがあることを知らないから。ただでさえ風邪を引いた時でさえも少し値段の良い果物を買ってきては「これを食べれば治る」なんて言ってくる人たちだ。フラジールなんて都市伝説みたいな病になったと言ってもそれを受け入れてくれる人ではないと今までの生活で分かっていたから。
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