1.6月

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 昨日のことがあってから休み時間がほかの子と比べて苦手になる。美悠ちゃんと話すときは彼女の言葉に耳を傾けているせいかほかの子の言葉は気にならない。それでも誰かの言葉が辛かったり、しょっぱかったり、胸焼けするぐらい甘ったるい言葉が体に流れ込んできては気持ち悪くなる。一週間に一回、一時間だけ授業を休み保健室に逃げ込む。この状況は来月のカウンセリングで伝えるから問題はないだろう。  これ以上秀先生を困られたくなかったのに、と思いながら放課後は図書室に逃げ込んでいた。  それでも、楽しい時間は少しだけ増えた。  月曜日と木曜日は日向君と一緒に図書室で勉強をする。わからないところを教えてくれたり、教えたりする時間は楽しい。それに借りた本の感想を話すのも楽しくて、週に二回会える日は友達が増えたみたいで嬉しかった。  期末テストも近いことから、お互いテスト対策の問題集を解いたり、英単語の問題を出し合ったりした。日向君は人に物事を教えるのが上手く、授業中に理解できなかったところは彼に教えてもらうとその問題がすらすらと解けた。 「黛さん飲み込み早くね。コツさえわかれば怖いもん無しだと思うわ。再来週の期末ガンバ」 「ガンバって、日向君他人事過ぎ……。日向くんも同じく期末テスト受けるんですけどー?」 「だね」 「部活はテスト期間でも休みにならないの?」 「なるよ。来週から。来週からは放課後ずっと図書館だわ」 「同級生増えないといいなー。自習室すぐに埋まるし、教室も残る子たちいそうだなー。……教室だけはいたくないわ」 「なんとなくわかるわ」 「ありがとー」  ここ数日、日向君と出会って感じたことが一つ。彼は人との会話に必要以上に詮索をしない。それが普通なのかは私にはわからない。共感してくれることはあっても、「なんで?」と聞かれたことが無い。私が彼に対して気になることは聞いたら答えてくれるけれど、彼から彼自身についての話は一度も聞いたことが無かった。 (いつか聞けたらいいな、なんて……。それまでには私のフラジールも少しは収まってくれたらいいのに)  彼の隣を歩きながら、全てのことに淡い期待を持って、やめる。期待をしてしまえば苦しいことを知っているのは自分自身なんだから。  それでも、こんなにも誰かのことが気になる自分は初めてで不思議だった。
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