7人が本棚に入れています
本棚に追加
六月最後の週の放課後は図書室で勉強をした。
梅雨でクラスの女子は湿気が強くて髪型が決まらないと嘆いているが、私はそんなことは気にしていない。国語の授業で行ったテスト対策用の小テストが満点だったことがきっかけで雨の日も悪くないかもと思うぐらい。それに、日向君に教えてもらった数学は小テストでも少しずつだがいい成績を出している。そのことが少しずつ自信になって苦手科目も少しは克服できた気がする。得意科目は小テストでもいい成績が続いていて担当の先生からも「この調子で」と言われた。
「なんかいいことあった?」
「んー、数学の小テスト今回満点だったんだ。もしかして顔に出てた?」
顔に出ると言っても彼から私の表情を読み取るとしたら目だけだろう。今日も相変わらずマスクはしてるし、前髪も目に入らないぐらいに長さはギリギリだし……。ふと、一つのことわざを思い出す。
「もしかして、目は口程に物を言うってやつ?気が付かないうちに私、にやけてた?」
え、と小さく口を引き攣る彼。
少しの沈黙の後、彼は口を開く。
「んなエスパーみたいなことできないって。なんとなく雰囲気がほわほわしてた」
「ほわほわ?」
意外な単語が出て思わずきょとんとしてしまう。
「勉強もいつもより気合入ってる気がしたからなんかいいことあったんかなーって」
頬を少し赤らめて、最初は視線もあっていたのに段々と逸れて終いには目をギュッとつぶっている。その姿が最初に会った頃には想像もつかなくて、思わずクスッと笑みが漏れる。
「なに笑ってんの」
「いや、なんかいろいろ意外だったから。日向君の口からほわほわって単語聞けたのと、顔赤くなってるの」
「あ、赤くないし。赤かったとしても、日焼けだし!ほら、テストに向けて追い込みするんでしょ。数学一問でも間違えたらジュース奢って」
「じゃあ一問も間違えなかったら日向君がジュース奢ってよね」
結局のところ数学の問題は一問だけ私が間違えて彼にジュースを奢ることに。彼の無邪気な笑顔を見ながらテストの点数は負けないぞと心の中で小さく宣誓した。
男女間の友情は難しいと言っているクラスの女子がいたけれどそんなことは無いと思う。性別なんて関係なく勉強を教え合ったり、他愛のない話をして小さなことで競い合うことに男女の差なんてない、はずだ。
最初のコメントを投稿しよう!