0.月に祈る

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 Side a 「月が、綺麗……。今日だけなら縋ってもいいよね」  僕しかいない家の中でぽつりとこぼれた僕の言葉。  いつもは母さんが家にいるけれど今日は夜勤なのか、いない。父さんはいつも朝早く仕事に行って仕事で帰りも遅い。  ポールハンガーにかけてある真新しい高校の制服に月の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。ぼんやりと光の元である月を見てこれからやってくる高校生活に不安を抱く。  僕は誰かに頼ることが苦手。誰かに心配、迷惑をかけてしまうことが嫌。それも、僕の発言で話の雰囲気を壊してしまうのが怖かった。  きっと周りからはそんな風には感じていない、僕だけが気にしすぎているのかもしれない。そんなことはわかっている、わかっているんだけれどこの不安は僕の心に住み着いた。周りクラスメイトみたいなごく普通の当たり前のやり取りができなくなっていった。  思い返せば中学に上がってからは親、友達、先生周りの顔色を窺って本音を言わなくなっていた気がする。周りに心配をかけないように心を偽って、作り笑いを張り付けた息苦しい生活を送っていた気がする。  僕、いつから本音で話したっけ。本音でぶつかり合うことが今はとても怖い。  でも、これからやってくる高校生活はこんな僕の嫌なところを治したい。治したいけれど、怖い。  僕の持つもので、誰かを悲しませてしまうのなら、一人でいたいと思ってしまう。こんな苦しみを持つのは僕だけでいいと思ってしまう。  今、誰もいない一人の今だけは素直になりたい。 「僕のフラジールを受け入れてくれる人がいたら、いいな」  わがままだって、叶わない願いだってわかってる。それでも、その日は僕がそこにいていい理由がほしかった。こんな僕でも「大丈夫だよ」と一言言ってくれる人がいてほしかった。
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