1.6月

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(人が言葉を発せなければ私も普通の子と同じだし。四六時中ずっと甘ったるいのは勘弁)  フラジールのせいで眉間にしわを寄せやすくなったのを隠すために目元ギリギリの前髪を手で弄りながら人には言えない本音を心の中で零す。  本を読んでいると少しずつ気持ちが落ち着いていく。教室でも、カウンセリングの時でも常に人が話す言葉すべてが本音かどうか疑っている緊張の糸がやっと緩んできていた。ここで肩の荷が下りたと思った時に瞼を閉じた。  小さく肩を揺らされているような気化する。 「おーい」  なんか、私、呼ばれてる? 「起きてー」  起きて?起きる?なんで?私どこにいたっけ?カウンセリング終わって、図書館に勉強しに来て、それから、それから? 「っ!」  本を読んでいる最中に寝たのだとゆっくりと記憶を呼び起こして気づいた。ゆっくりと瞼を開け、右側から声がしていた気がしてそちらの方を向くと一人の男子高校生がいた。私のいるコースでは見かけない顔だ。前髪も少し目にかかりそうなぐらい長い。人のことを少しでも観察してしまう悪い癖でまつげも長いな、なんて呑気なことを思っていると彼が口を開いた。 「あ、起きた。さっき図書館閉館する十分前のアナウンス流れてたから。なんかアナウンス気づいてなさそうだなって思って声かけたというか、起こした、ました」  丁寧な口調で私を起こしてくれた理由を話す彼。ここの図書館の閉館時間は確か六時だったと思いながら時計をぼんやりとみる。 「え、もうそんな時間!?……ですね。起こしてくれてありがとうございます。声かけてくれなかったら図書館で一晩過ごすことになったかも」  冗談を言いながら彼に感謝の気持ちを伝えれば「次は寝てるの気づいても起こしません」と私と同じように冗談交じりで言われてしまった。 「迷惑にならなくて良かった。じゃ」  彼は荷物を取って図書館を後にした。上履きの色は私と同じ学年の色だった。同じ色かと納得して口元に手を持って行くとマスクを着けていないことに気づく。フラジールのことを悟られないためにいつもつけていたマスクはカウンセリングの時に外したのをすっかり忘れていた。慌てて着けなおしながらさっきの彼を思い出す。 「同じ青色だったなー。え。え、待って、同級生に寝顔見られた!?……って言うかさっきの人ちょっと渋い味したんだけど、なんで?」
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