1.6月

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 火曜日。  学校には通勤通学の混雑を避けて比較的人が少ない朝一で学校に通学する。高校の最寄り駅から高校まで直通バスが出ていて始発のバスに乗って学校に行けば、教室に入るのが大体一番最初。その次に教室に入るのがクラス委員の藤堂奏冬君と担任の秀先生。 「おはよう。相変わらず二人とも朝早いね」 「おはようございます、秀せんせ。通学ラッシュの電車だけは乗りたくないんですもん。暑くて」 「俺も。これから暑くなるのに暑いときに来るよりも涼しい方がいいです」  なんて他愛のない会話をする。けれど、秀先生が毎日朝一で教室を訪れるのは私の体調を心配してのこと。そのことに気づかせてくれたのは先生の顔色や言葉ではなく、保健室に休みに行った時、こっそりと優花先生に秀先生も声には出さないけれど心配していると言われたから。  今日もいろんな人の言葉の嘘の甘さに耐えながら放課後まで何とかやり過ごす。今日は骨の髄まで甘ったるい嘘の言葉や、胸焼けするほどの甘さは無くて、保健室に行くほどではない。  常に不特定多数の言葉を常に警戒していた糸も放課後になるにつれて緩んでいく。  今日の放課後も昨日と変わらず悠美ちゃんの部活が終わるまで図書館で勉強をする。図書館のコインロッカーに勉強する科目以外の荷物をいれて入る。昨日と同じ、六階の日当たりが良い一番奥の窓側の席に着くとふと昨日のことを思い出す。同級生の彼はいつもここを利用しているのかな、なんて思いながら辺りを見渡しても彼はいなかった。閉館ギリギリまで勉強しても彼は今日、来なかった。 昨日たまたま図書館に来ただけかもしれない。また会ったとしても話すことなんて多分ないのにどうして彼が気になるのだろう。悠美ちゃんを待ちながら彼が気になる理由を考えた。 理由を探した結果、私と別れる前の言葉の本意が知りたかったからだと気づく。あんなにも薄くて渋い味の感覚は初めてだったからだ。今までとは違う感覚に驚きながらもやっぱり彼のことが気になる。勉強とは別に図書館を行く理由が増えたからだろうか。心なしか明日も図書館に行くことが少しだけ楽しみになった。  水曜日、朝の天気予報で梅雨入りしたことを知った。雨の日は嫌いではないが、通学するときが少し困るぐらい。指定鞄の中にいつでも雨が降っていいように折りたたみ傘を入れて学校に登校する。   放課後、図書室に彼は来なかった。  木曜日、彼を見かけた。  声をかけようと思ったけれど、なんて声をかければいいかわからなかった。それに同じクラスではないから「この前の子だよね?」なんて気軽に声をかけるなんてハードルが高かった。それにもしこの前の出来事を私だけが覚えていたらなんか気まずい。 結局その日私が彼に声をかけることは無くてその日は過ぎていった。
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