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月曜日。
朝、いつも通り朝一の時間帯で登校すると奏冬くんと秀先生に心配された。美悠ちゃんはいつも通り明るく話してくれたけど、彼女の言葉は少ししょっぱい。休み時間の間に休んでいた日の授業のノートを美悠ちゃんが見せてくれた。授業でわからなかったことを美悠ちゃんに質問することが多かったせいか甘さを意識する暇がない。
帰りのホームルームが終わり、教室を出て図書館に向かう足取りが心なしか軽い。図書館の入り口近くになり、勉強しようとした教科を歩きながらリュックから取り出しているとコインロッカーである人を見かけた。
「あ」
小さく声を出したらその人に声が聞こえたのか、彼が振り向いた。
「え?」
「この前の……」
人を指で指してはいけないと言われていたのに、右手に持っていた筆箱で彼を指した瞬間、左腕に抱えていた問題集やノートがバサバサと落ちていく。
「えっ、わー!?」
図書館前ということを忘れて叫んでしまった。ワークを落としたことと、また会えたということに動揺して。散らばったワークを拾っていると私の上に影がかかる。
「なにやってんの。あ、同じワークじゃん。君、特選なの?」
ワークを拾ってくれた彼の言葉で彼を見かけない理由がわかった。高校の進学のコースが違えば教室も違うし、移動授業もあったりなかったりといろいろ会う機会が少ない。会おうと思えば会えるがあってもすぐに移動授業や小テストの勉強をしているのを見かけたことがある。
「拾ってくれてありがと。ううん、選抜。一個上のクラスだったんだ。だから顔見かけないわけだ」
「ふーん。マスク厚くないの?」
「これ?いつも着けてるから気にならないよ。八月が一番暑苦しい」
「……そう。……一緒に勉強する?」
「え、いいの?迷惑とか邪魔じゃなければ」
彼の予想外の言葉に嘘は無く、彼の隣の席で勉強をする。黙々とワークの問題を解いているとわからない問題がでてきた。解き方がわからず、シャーペンでトントンとノートを少し叩いていると彼は何も言わず、解き方を教えてくれた。話したのはその一回だけ。
図書館の閉館のアナウンスが流れてから荷物をまとめ、上履きを革靴に履き替えるため本館の昇降口に向かう。
「途中教えてくれてありがと」
「別に。……君さ、いつも図書館くるの?」
「うん。君って呼び方面白いね。クラスメイトにもそんな風に言われたこと無いからなんか新鮮。もしかして、名前言ってないから君って言った?私は黛風花。君は?」
「日向明那。僕、部活やってるから月曜と木曜しか図書館来ないよ」
「だから火曜と水曜見かけなかったんだー。なんかいつも来るのかなって気になってたから。同級生で図書館来るの珍しいなーって」
「うん。実は思ってた」
なんだ、お互い同じことを思っていたのか。なんか嬉しいようなほっとしたようなむず痒い気持ちになる。変な人だと思われてなくてよかったと思ったのも少しある。
「あ、ふうちゃん」
昇降口で私に向かって手を振る美悠ちゃんが見えた。彼は彼女に気を使ったのか「……じゃ、また木曜日」と言って速足で行ってしまった。
「うん、木曜日に」
嬉しかった。けれどそれはこの時間まで。
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