カエル退治

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 おとなしくドアを開けて中に入った。もう他の教師はいなかった。  カエルの横に立ち、彼が熱中していたものを好奇心で見下ろした。  教師用の数学指導の手引きのようだった。  前の簡易本棚には「数学――神秘の輝き」などという不可解な本がシリーズで並んでいた。  カエルはぱたんと本を閉じた。  机の引き出しから大きなファイルを取りだしてぱらぱらとめくった。  私は見ていいものかどうかとまどう。生徒の情報が顔写真付きで記載されているのだ。先生たちはこんなものを持っているのか。それとも、カエルがひときわ執念深いだけ?  「佐久間美緒」  紛れもない私の顔写真と名前。カエルは見られるのも気にせずに声に出して読み始めた。 「佐久間美緒。……成績は今までのところトップクラス。全科目においてトップ3を外したことはない。全国模試総合1000番以内の実績あり。バスケ部に所属」 「あの」  おそるおそる私は言葉を発した。 「そんなの、本人に聞かせていいんですか。ふつう、内緒にしてるんじゃないですか」 「そうだ」  こともなげにカエルは答える。 「だけど、ここまでは君が自分でよく知っていることだろう」  確かにそうだ。
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