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そう思った矢先、茉莉ちゃんはそっと私を廊下に呼びだした。
「何?」
「いいから」
それから茉莉ちゃんは深呼吸をする。
「実は、美緒ちゃんには言いにくかったんだけど、私カエルのこと嫌いじゃないんだ」
呆然とする私に畳みかける。
「ていうか、はっきり言うと好き。バレンタインが楽しみなの」
バレンタインなんて来年の話じゃないか。
「だから、美緒ちゃんがカエルをあんまり嫌うと私、困っちゃう。だって、美緒ちゃん親友だし」
ちょっと待て、と私は思う。親友ってそういうもの? 私はこれまで茉莉ちゃんを確かに親友だと思ってきたが、急速にそれが揺らいだ。
その日は四限目が数学。
私は何となく周囲の目が気になってきた。皆は何を私に期待してるんだろう。本当は皆、カエルのかっこよさや学歴やお家柄に夢中なわけ?
人間不信になりそう。
この日は授業にも身が入らない。
例によって今日は十五人目の犠牲者が出たが、私はもう口出しする気力もない。
「凡人は凡人なりに、だな」
カエルは言い捨てる。
「はっきり言って、君たちが数学の完全なる美を理解することなど不可能だ。本来なら学ぶ意味もないし、かえって数学という学問への侮辱でさえある。しかし私はどんなぽんこつどもを相手にしていようと教師だ。教えるだけは教えてやると言ってるんだ。なのにそのありがたみも分からないのか」
十五人目の子は例によってべそをかき始めたが、私はカエルの雰囲気がどこか妙なことに気づいた。
顔を上げたとたん、私とカエルの目がぴったりと合ってしまった。こちらからは逸らせない、そういう固い決意はまだ私のうちに健在だった。
カエルはなぜか、十五人目の犠牲者ではなく私をじっと見ている。
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