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「けっこうです。先生が借りたいならお先にどうぞ」
冷たく言った。
「いや、いいんだ。昔さんざん読んだ本でね。つい懐かしくて見たくなっただけだ」
どうでもいいことのようにカエルは言う。
カエルは今は、もうグリーンの上着は脱いでノーネクタイの真っ白なシャツ。カエルじゃなくなってる。
カエルが本を手にして手招きするので、私は仕方なくついて行った。
図書館から庭に出られるようになっている。
「君はまだ数学の何たるかを少しも分かっていない」
私が数学で学年トップだったことなど無視してカエルは話し始めた。
「世の中には本当の天才ってものがいるんだよ。俺は数学がとにかくガキの頃から大好きで高校の頃夢中で読んだのがこの本だ。
大学も、法とか政治とかを求める親父に逆らって理学部数学科に進んだ。院まで行って勉強した」
カエルの話とは別に、私の頭の中はかき混ぜられたように混乱して目がまわりそうになっていた。
カエルは何で今私をつかまえてこんな話をしている? その真意がわからずにパニックに陥っていた。
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