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私は本を抱きしめて呆然と見送った。
帰宅そうそう、私はそれを取りだして読み始めた。すぐに引き込まれた。何て面白いんだろう。学参の比ではない。本物の、学問の書だ。
あまりに面白くて、夕ご飯を食べるのもお風呂に入るのももどかしく、ほぼ徹夜でそれを読み切った。
まるで世界が、これまで見ていたものと違う何かに生まれ変わったかのようだった。
不思議な高揚感に包まれて翌朝登校したが、授業の前に図書館に寄り、別の似たような本を探した。
カエルのやつ、もっと教えてくれてもいいのに。そう思ったとたん、私はどこか恥じる気持ちにとらわれた。
これじゃ、数学のテストをがんばったクラスの皆と同じじゃない? それは悔しい気がした。
だから、カエルの授業では私は相変わらず反抗的な態度をとりつづけた。もはや皆のためではなく自分のため。
私は自分のなかの初めての気持ちを認めたくはなかったのだ。
カエルはそういう私の想いを見抜いてしまっていた。口惜しいことだが。
「ポンコツどももやる気を出したようだな」
試験後初めての授業で答え合わせをしながらカエルが言う。私はカエルが読んでいた数学の指導方法に関する本を思い出した。
「この中で本当に数学に目覚めることのできる者はいないかも知れない。が、何かの役には立つだろう。少なくとも受験には確実に役立つしな」
素っ気ない。でも反感はもう湧かなかった。
私は全科目しっかりと勉強していたが、とりわけ数学は受験に関係のないことまで熱心にやるようになった。
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