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「佐久間美緒。これをやったのは君だな」
抑揚のないカエルの声に、私ははっきりYESと返した。カエルの右手は握られ、そのなかにはあの憐れな緑色の犠牲者が……。
カエルは右腕を伸ばした。それを軽く振って私の机にとんと置いた。私は目をつむる。ああ、こんなこと、許すものか。
カエルがそのまま教壇に戻る気配がした。
周囲がほうっとしたため息の渦になっている。
私の机の上には、きょとんとした顔をした五体満足のアマガエルがのせられていた。
「佐久間は午後5時に職員室にくるように」
私は出頭を命じられてしまった。
昼休み、アマガエルを元の植え込みに返して教室に戻ると、それまでおしゃべりしていたのをピタッとやめる人たちがいた。そのなかには先日カエルにいじめられた侑子ちゃんもいる。
怪訝に思って「何?」と訊こうとしたが、茉莉ちゃんに呼びとめられた。
「美緒ちゃん、今日は庭でごはん一緒に食べよう」
校内には芝生の庭があり、生徒たちの憩いの場だった。
茉莉ちゃんと一緒にベンチの一つに腰かけた。
「あのさ、美緒ちゃん」
言いにくそうに茉莉ちゃんが言う。
「侑子ちゃんたら、美緒ちゃんの悪口言ってたよ」
「えっ?」
驚いた私は茉莉ちゃんの顔をまじまじと見た。
「あ、そんな深刻なことじゃないけど。侑子ちゃん、美緒ちゃんにあそこまでしてほしくなかった、って言ってたの。種を蒔いたのが自分だとわかってるから自己保身になったみたい。まあ、侑子ちゃんてそういうところ、あるし」
軽くショックだった。あの話の輪はそういうものだったのか。
私は侑子ちゃんはもちろん、みんなのためにしたつもりだった。空振りしたけど。
「全員がそう思ってるわけじゃないよ。最初はみんな面白がってたし」
「だよね」
急に心細くなって私は助けを求める気持ちになっていた。
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