カエル退治

8/19
前へ
/19ページ
次へ
「佐久間美緒。これをやったのは君だな」  抑揚のないカエルの声に、私ははっきりYESと返した。カエルの右手は握られ、そのなかにはあの憐れな緑色の犠牲者が……。  カエルは右腕を伸ばした。それを軽く振って私の机にとんと置いた。私は目をつむる。ああ、こんなこと、許すものか。  カエルがそのまま教壇に戻る気配がした。  周囲がほうっとしたため息の渦になっている。  私の机の上には、きょとんとした顔をした五体満足のアマガエルがのせられていた。 「佐久間は午後5時に職員室にくるように」  私は出頭を命じられてしまった。  昼休み、アマガエルを元の植え込みに返して教室に戻ると、それまでおしゃべりしていたのをピタッとやめる人たちがいた。そのなかには先日カエルにいじめられた侑子ちゃんもいる。  怪訝に思って「何?」と訊こうとしたが、茉莉ちゃんに呼びとめられた。 「美緒ちゃん、今日は庭でごはん一緒に食べよう」  校内には芝生の庭があり、生徒たちの憩いの場だった。  茉莉ちゃんと一緒にベンチの一つに腰かけた。 「あのさ、美緒ちゃん」  言いにくそうに茉莉ちゃんが言う。 「侑子ちゃんたら、美緒ちゃんの悪口言ってたよ」 「えっ?」  驚いた私は茉莉ちゃんの顔をまじまじと見た。 「あ、そんな深刻なことじゃないけど。侑子ちゃん、美緒ちゃんにあそこまでしてほしくなかった、って言ってたの。種を蒔いたのが自分だとわかってるから自己保身になったみたい。まあ、侑子ちゃんてそういうところ、あるし」  軽くショックだった。あの話の輪はそういうものだったのか。  私は侑子ちゃんはもちろん、みんなのためにしたつもりだった。空振りしたけど。 「全員がそう思ってるわけじゃないよ。最初はみんな面白がってたし」 「だよね」  急に心細くなって私は助けを求める気持ちになっていた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加