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サイキッカー疑惑
#3
食事のお代わりを取りに行って戻ると、さくらさんが僕の座っていた席に座り、ニチカと楽しそうに話していた。
「いまね、私と圭太の話をしてたの」
さくらさんがにこにこ微笑んで、こくりと頷く。
僕はさくらさんが座っていた椅子にに座る。チラッと左に座るブルーに目をやるが、彼はちょっと緊張感したように身を縮めた。
さくらさんが僕に話しかける。
「聞いた。すごいね、15年クラスが一緒って。運命の人としか言えないわ。妬けるけど」
僕は、まぁそうなのかな、と曖昧な返事をして、ニチカをチラッと見た。彼女が視線を落としたのがわかった。後ろめたさからだろう。それでも吹っ切るように顔を上げ、付き合ってまだ1ヶ月なんだけどね、と言った。
「そーなんだ!どっちから告白したの?」
さくらさんの言葉に、ニチカが黙って片手を上げる。間髪入れずさくらさんが言った。
「そうだと思った!」
「でしょでしょ。私からコクってなかったらおばあちゃんになっちゃうもん」
僕は話しに割って入る。
「それは言いすぎです」
「言いすぎじゃありませーん。ファニー先生はお見通しなんだから」
ニチカの言葉にさくらさんが反応した。
「ファニー、先生?」
ニチカは嬉しそうにファニーの説明を始めた。
僕が入院していた時の看護師だったこと、縁があっていまは英語の家庭教師をしてもらっていることなどだ。
さくらさんは興味津々でじっと聞いていたが、話が終わると、妙に真顔になり
「ファニー先生って、なんだか特別な人みたい」
と言った。特にそんな話はしていないのに、だ。
ニチカが僕を見る。話していいの?という顔だ。アイコンタクトで、いんじゃないとサインを送った。隠すような話ではない。本人が言いふらしているくらいなのだし。
ニチカはファニーはサイキッカーで、人の心を読んだり、テレパシーを使えることなどを話した。
「あくまでも、自称だけどね」
過度に盛り上げないよう、僕はそうコメントした。ファニーの能力は認めざる得ないところではあるけれど、そんな人と知り合いなんだとあまり思われたくなかった。基本的に僕はスピリチュアル否定派なのだから。
「へぇ、すごい」
「しかも、ハーフでめっちゃスタイルが良くて、かっこいいの。憧れちゃう。以前はニューヨークに住んでたらしい。だよね、圭太」
「だったかな」
僕はは心の中で、無邪気にはしゃぐニチカに、もうファニーの話はやめてくれーと思った。特にさくらさんには。
そのさくらさんは、意味深にふぅんと頷き、会ってみたいと言ったので、僕は答えた。
「こちから連絡は出来ないんだ。どこに住んで本当は何をしているかも不明。謎の人だよ」
「そうそう、今日ね、ファニー先生も東京に来るの。一緒のホテルに泊まるんだよねぇ」
ニチカは嬉しそうだ。
「仲いんだね」
僕はさくらさんに言う。
「ボディガードのためって本人は言ってるけど、よく意味がわからない」
さくらさんが目を見開く。
「え、平野圭太は誰かしらに狙われてるの?」
ニチカが余計なことを言いそうだってので、僕が先回りして喋り出す。
「冗談だよ。保護者のつもりなんじゃないかな」
そう言って、ニチカを見る。これ以上、ファニーのことは言わないでという意味を込めて。
彼女は理解したように、首をすくめた。
ファニーは僕に、身辺に気をつけるようにとは再三言っていたが、ドクターの一件以来、特に変わったことはない。
単に東京に来たかったぢけでは?と思わなくもなかった。
僕はさくらさんに尋ねた。
「さくらさんも、ひょっとしてサイキッカーとか?」
みんなの視線がさくらさんに集まる。彼女は目を細めて、さぁ、どうかしらと微笑む。
「だって、去年の機関誌のインタビュー、なんだか予言っぽく言ってたよね」
「サービス精神よ。平野君もわかると思うけど、何度も同じこと聞かれるでしょ。そうしたら、変なことも言いたくなるってこと。わかるでしょ?」
その言葉にとりあえず頷いたが、正直なところ、僕にはそんなサービス精神は持ち合わせていない。
確かに、取材では判で押したようように同じことを聞かれる。いつからギフテッドなのかとか、将来何をしたいとか。
繰り返し答えていると、思ってもいないことでも言ってやろうかと思うこともあるが、それはサービス精神ではない。むしろ、反骨精神に近い。
彼女は僕をまじまじと見ると言った。
「そもそもサイキッカーという定義が曖昧だと思うのね。第六感なんて古代から人間に備わっているものでしょ。それに脳は2%しか使っていないと言われているから、覚醒したら、すべての人がサイキッカー、ってことにもなるかもしれないし」
脳の覚醒という言葉が、僕の心を動かす。
「脳は覚醒できると思う?」
僕の問いにさくらさんは、目を伏せ、それから僕に視線を戻す。
「それは逆に平野圭太君に聞きたいことだわ」と言ってから続けた。「言葉にできることは必ず実現すると私は思ってるわ。言葉にしたということは、頭で考えられたことでしょ。考えられたことはすでに実現することを予言して言語化しているんじゃないかしら。これは私の持論だけどね」
さくらさんは一旦言葉を区切り、再び話しを続けた。
「実はね、私は平野君はすでに脳の覚醒をした人なんじゃないかって思ってるの。脳の覚醒なくしてIQ385なんて、ちょっと考えられないんだなぁ」
彼女の鋭い洞察力に動揺しそうになったが、精一杯、平静を装う。やはり、サイキッカーなのか?
と思ってしまう。ホワイトハッカーだと言っていたから、情報収集はお手のものだろうが、エンジェルのことはわかるはずはない、はずだ。
「IQのことはよくわからないです、僕には」
「へぇ、385のIQでもわかないことあるんだね」
皮肉に聞こえた。
本当はわかっているんでしょ、というさくらさんの心の声変わり聞こえた気がした。
「さくらさん、占いとかできそう」
唐突に、ニチカが言った。
彫の深い顔立ちに、大きな目、サリーを着たさくらさんなら、誰もが占い師と素直に信じてしまうだろう雰囲気を持っている。
人は見た目だ。
さくらさんは目を細めてニチカを見た。その目は女子が女子を見ている、という感じとはちょっと違う気がしたのは僕の気のせいだろうか。
「占いかぁ、タロット占いくらいならできるけど。でもあれは習得すれば誰でもできるしね」
僕は隣に座ったブルー見た。
彼の澄んだ目はじっとさくらさんの横顔を見ていた。何か言おうとしている気はしたが、結局、彼は何も言わなかった。
それにしても、と僕は思う。
ブルーの美しい顔立ちは一点の曇りもないと。
さくらさんやニチカやファニーも美人だが、ブルーの美しさには敵わないだろうと思わせるものがあった。
この世のものとは思えない、という言葉が頭に浮かぶ。
僕があまりにじっとブルーを見ていたせいか、彼は消えるような声で言った。
「恥ずかしいからあまり見ないで」
「ごめんごめん」
僕は視線を逸らして会場を見渡す。
決勝大会が始まる時間が、近づいていた。
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