3

8/8
71人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
「萩香」  久しぶりに呼ばれた名前にビクッと身体が反応する。  自室で勉強しているときだった。  本当は今日は勉強せずに寝てしまおうと思っていたけれど、何かしていないと落ち着かなかったから。 「15分後に部屋に来なさい」 「…はい」  がちゃ、と扉の閉まる音が聞こえて、俺は机に突っ伏して大きく息を吐いた。  やっぱり、来てしまうのかこの時間が。  怖い、素直にそう思うけど口にすることは出来ない。  あと15分。  長いようで短い15分。  それなら今すぐ、そう言われた方が気が楽だった。  突っ伏したままぼんやりと、色んなことを考えていると机の脇に置いていたスマホから音が鳴る。 “おつかれ!” “明日バイトあんの?暇なら帰りどっか行こーぜ”  立て続けに送られてくる東からの呑気なメッセージ。  それに自然と表情が緩む。  そんな自分に驚いて、俺は体を起こして頬を軽く叩く。 “バイトは無いけど嫌”  スマホで文字を打って返信する。 “何でだよ!” “めんどい” “酷” “お願い!奢るからさ” “別のやつと行けばいいじゃん”  その俺のメッセージに既読がついたきり、暫く返事は返ってこない。  大丈夫?とか既読無視すんな、とか送ってやろうとしたけど、何度か打った文字は全部消した。 “やだ” “支倉と行きたいの”  暫くした後にきたメッセージ。  何言ってんだこいつ。  鼻で笑って何言ってんの、なんて送り返してやる。 “本気だって!” “何で”  そこからまた返事が途絶える。  そろそろ15分が経つ。  俺はスマホの画面を下に向けて机に置いて、椅子から立ち上がった。  部屋を出ようと歩き出した瞬間に、背後からぶぶっとスマホの通知音がする。 “支倉ともっと仲良くなりたいから!”  そんな理由に思わず吹き出す。  なんだそのガキ臭い理由。  俺と仲良くしてなにも得なんてないのに。 “あほくさ”  軽く4文字で返して、息を吐いた。  今度こそスマホを置いて、通知音は無視して部屋を出た。  名残惜しさを感じながら、深呼吸をして扉をノックする。  あとは、苦しくて辛い時間。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!