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「来ちゃった」 「…はあ?」  まるで語尾にハートがつきそうな口調の東に俺は呆れたような、溜息を吐くような声を漏らす。 「帰れ」 「一緒に帰ろ」 「無理」  軽く答えながら東の横を素通りする。  ちょい待って待って〜なんて言いながら東はすぐに俺の隣に並ぶ。 「お前そんな働いてて大丈夫なの?」 「はあ?何ソレ」 「ずっと体調悪そうだったし。大丈夫?」 「…別に、大丈夫。好きでやってるし」  ならいいけど、なんて言った東を横目に見る。  むしろ前より体調いい。  そう言おうとして辞めた。  なんで?とか俺のおかげ?とか言われるのが嫌で、言葉を飲み込んで代わりの言葉を口にする。 「…お前はなんで来たの」  何だか気まずくて、目が合わないように若干下を向く。 「んー?何か…心配だったから?」 「…何言ってんの?」 「だってお前細いし折れそうだしすぐ攫われそうだし」  コイツは俺に対してどんなイメージを抱いているのだろうか。 「…俺ガキでも女でも無いけど」  思わず呆れた声になる。  でもしょうがないだろ。 「いや分かってるよ。でも心配なの〜、何でだろうな」 「…Subだからとか言ったらぶん殴るからな」 「いやいや、それは違うってば」  苦笑する東に何笑ってんだよ、と言いたくなるけどそれも引っ込める  そのまま暫く歩くと駅に着く。  ちょうどいい時間の電車に乗って、数十分揺られた。 「支倉」  話しかけられて視線を東の方に向けた。 「バイトお疲れ。言ってなかったからさ」  そんな優しげな声色に、何だか暖かい気持ちになる。  うん、なんて小さく言うとわしゃわしゃと頭を撫でてくる。  やめろ、なんて言って手を払い除けるけど、それにまた安心感を覚えた。 「はは、ごめんごめん」 「…思ってねえだろ」 「まあまあ。それよりさあ」  何だよ、と溜息を吐きながらじろっと見た。  珍しく東は言葉に言い淀んで、うーんと考え込んでいる。 「…なあ、遊びにいかね?2人で」 「…はあ」  結局出た言葉は直接的な表現で、何の間だったんだと思う。 「な〜、答えは?」 「…無理」 「おい!」 「ほら、お前もう着くだろ。じゃあな」  ちょうど今着いた駅は東の家の最寄り駅。  ぐいぐいと背中を押して、無理やり電車を出るように促す。  じゃあな、と結局笑いながら東は手を振っていて、俺はそれを電車の中から見送った。
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