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 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。  俺は軽く伸びをして、教科書のノートをしまう。  このまま全て片付けてリュックに突っ込んで帰ってしまいたいがそうもいかない。 「支倉クーン?」 「ハイハイ分かってますよ」  様子を伺うような声にしょうがなく答える。  帰りたくても買える訳にはいかない。  約束してしまったからにはそれを破る訳には…いや破りたい。  本当は破ってやりたいが、色んなリスクを考えるとそうもいかない。 「東!今日空いてる?」  空いてるって言え、空いてるって言え…と俺は内心大声で叫ぶがそんな祈りも無駄だった。 「悪い、今日用事ある」 「まじか〜、みんなでカラオケ行こって言ってたんだけどさ」 「わりー!また誘って!」  いや行けよ、と突っ込みつつもそれを声に出すことは出来ない。  その代わりに誰にもバレないよう溜息を吐く。  じゃあな〜、とクラスメイトに手を振る東。 「そのまま帰ってもいいんだぞ」 「帰りませーん、てかここ教えてくんね?」 「俺が?」 「だって頭良いじゃん」  しょうがなく後ろの方を向いて、どれだよと教えて欲しい問題を催促する。  これ、と言って指差したのは数学の問題。  昨日やったやつだ、とか何とか思いながらこれはああだこうだと説明してやる。 「…え、こうじゃないの?」 「違う。それやったらこれ当てはまんねぇだろ」 「うわそうじゃん」  俺の拙い説明でもすぐに東は理解する。  それに驚きつつ、地頭いいんだろうなとぼんやりと思う。 「めっちゃ分かりやすいわ!まじサンキュ」 「おー、貸し1な」 「はあ?これ貸しにカウントすんなよ」  その言葉を無視すると、おい!なんて後ろから声が聞こえる。  聞こえない聞こえない、また無視して俺は自分の教材を開く。  本当は英語の長文問題がやりたかったがまた教えろと言われたら中断せざるを得ないので俺も数学をやり始める。 「東勉強してんの!?えら〜」 「お前らも俺を見習って勉強しろよ」 「うるさ、私たち東より勉強出来るから?」 「言っとけ」  クラスの女子から話しかけられ、それに応じる声を聞きながら俺は頬杖をついて問題を考える。  バイバイ、と言ってクラスメイトが教室を離れたあと、東はまた俺を呼んだ。
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