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「支倉〜」  肩を揺さぶられて俺は体を起こす。  どうやら寝てしまっていたようだ。 「何時…」 「5時前」  1時間近く経ってるじゃねえか。  でも謝らない、待たせたのはこいつだし。 「用事なんだったの」 「告られた」 「またかよ」  随分おモテになることで、なんて嫌味たらしく言ってみる。 「いや嬉しくねえ〜」 「はあ?何だお前」  俺は特にモテたいなんて願望も無ければむしろ人と関わりたくないから羨ましくは思わない。  けれど他の、健全な男子高校生の前で言ったらきっとこいつは殺される。 「だって俺好きな奴いるし?」 「へ〜」 「もっと興味もって!?」 「いや興味無いし」  帰るぞ、と荷物を持って席を立つ。  東もそれに倣って、隣を歩く。  外からは運動部の掛け声や吹奏楽部の楽器の音が聞こえた。  ぼんやりとそれを聞いていると、それでさあ、と東が口を開く。 「俺は好きなやついるけど、お前はなんか無いの?」 「はあ、なんかってなんだよ」 「好きとか気になるとかさ」 「逆になんであると思うんだよ」  ローファーを履いて駅への道を歩く。  東は不満気に、つまらなそうにえ〜、なんて言っているけど俺は華麗に無視を決め込む。 「…てか、そんなやついるなら俺じゃなくてそいつと帰れよ」 「えー?俺は支倉と帰りたいの〜」 「んだそれ」  駅に着くとちょうど電車が来たところで、俺たちはそれに乗り込んだ。  この時間の電車は学生が多く混んでいて座る場所は空いていない。  俺たちは立ったまま電車に揺られる。  暫く無言が続くけど、気まずいとかそんな風には思わない。 「なあ」 「何?」 「来週の…」 「無理」  食い気味に拒絶してみるとおい、なんて睨まれる。 「てかそんなに行きたいとこあるなら他のクラスのやつでも好きなやつでも誘って行けばいいだろ」 「え〜、俺は支倉がいいの」 「まじで意味わかんねえ」 「まあ来週じゃなくてもいいからどっか休日開けてよ」 「…いつかな」 「前向きに検討しといて!」  ちょうど東の降りる駅について、じゃあな、と言って電車を降りる。  俺は壁にもたれかかってぼんやりと考え事をする。  いつ空いてるかな、とか、そんなことは考えていない、断じて。
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