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「おー!似合うじゃん!かわいいよ」
「…お前馬鹿にしてるだろ」
「いやしてないよ」
なんでだよ、と笑いながら東は言う。
俺的には絶対にグレーの方が似合ってると思う。
そもそもピンクなんて俺っぽくない。
「…買うかは置いといてグレーにする」
「えー!ピンクにしなよ!」
「いやなんでだよ…」
脱ぐからカーテン閉めて、と言ってまた俺は試着室に籠る。
服を脱ぐ前に鏡をもう一度見る。
やっぱり俺には似合っているように見えない。
むしろ東が着た方が似合うんじゃないか。
顔立ちも雰囲気も、暖色が似合う男だから。
…って、何考えてんだ。
俺は服を脱いで着ていた服に着替え直す。
乱れた髪を整えて試着室を出ると、目の前で東は待っていた。
「お前はなんか無いの?」
「んー、ここは無いかな。ほかのとこ見ていい?」
「いいけど、時間は?」
「え?あ、もうすぐじゃん。じゃあ映画の後で!」
行こうぜ、と言って俺の手を引っ張る。
おいやめろ、と言うけどまあまあ、とか何とか言って手は離さない。
はあ、と溜息を吐いたけれだ傍から見れば男子高校生2人が手を繋ぎあっている様子はなかなか奇妙だ。
同じように手を繋いでいる人はいるけれど、それはDomとSubのパートナーらしき2人で首にはカラーという首輪を身につけている人が大半。
でも俺たちはそうじゃない。
性別的にはDomとSubだけど、ただのクラスメイト。
だから手を離して欲しい、なのに振りほどくことも出来なくて…いや、振りほどく気が起きなくて。
でも握り返す勇気もない。
ぼんやりと握られた手を見つめて、気づけば映画館の近くまで来ていた。
「なんか食う?」
「飲み物欲しいな」
「じゃあ買いに行こうぜ。奢ってやるよ」
そんな東の言葉に甘えて俺はコーラを奢ってもらうことにした。
いいよ、なんて遠慮する気も無く、東もそれに対して何も言わなかった。
2人で劇場に入るとまだ時間があるからか人はまばらだ。
席に座ってまた2人で話を始める。
見終わったらどこに行こうとか、そいえば課題やってねえだとか。
ふとこんなことをするのは初めてだと気づいて、俺はなんだか不思議な気持ちになる。
楽しいかも。
口に出そうになったその言葉を、俺はコーラと一緒に体の中へ押し流した。
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