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「やっと帰ってきたのか」  俺が家に帰るなり低い声が聞こえた。  びくっと俺の体が反応して、でも早く返さないとと口を開いた。 「…ごめんなさい」  いつもはこのくらいの時間に帰っても大抵この人…父親は帰ってきてはいない。  今日帰りが早いのは偶然だ。  まだ門限は過ぎてない。  それでも俺はそうやって返せなくて、小さく呟くように謝った。 「いやいい。それより飯だ」 「…はい」  俺は家事全般を1人で全てやっている。  昔から、そうだった。  父はDomだ。  そしてSubの母は弟を連れて、俺が中学に上がる頃に家を出ていった。  俺を…Subの俺を置いて。  広い家にはDomの父と、Subの俺だけ。  言わずもがな、俺は実の父に支配されていた。  このことは、誰にも言っていない。  いや違う、絶対に言わない。  助けなんていらない。  バレたくもないから、極力人と関わらない。  あともう少し、もう少し我慢して、絶対に大学に合格してここから出ていく。  そう決めていた。  冷蔵庫にある食材を取り出して、ぱぱっと夕食を作る。  あまり時間をかけすぎるとまた怒られてしまうから、手軽なものだ。 「…出来ました」 「ああ」  父は低い声でそう答え、ダイニングルームの椅子に座る。  買い換えていないおかげで無駄に広いテーブルには寂しく2人分の食事しか用意されていない。  食事中は会話なんて殆どなく、カチャ、という食事の時に出る音がダイニングに広がる。  夕食を終えると、風呂を沸かすスイッチを押して皿を食洗機に突っ込んで、そのまま俺は2階の自室に向かった。  参考書を取り出して、俺は今日の復習と課題を少し進めた。  風呂は父が先に入るから、暫く俺は勉強に集中することにした。
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