73人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
2
大きく深呼吸をする。
ドキドキと鳴る心臓がうるさくて周りの音がよく聞こえない。
震えそうな手で教室の扉を開けた翌朝。
おはよう…なんて声はいつもしない。
自分の席について、俯き加減でスマホを触る。
「東!おはよ〜」
後ろからそんな声が聞こえて心臓がまた酷くうるさくなる。
落ち着け、大丈夫だと自分に言い聞かせ、平静を装う。
「はよ〜」
不安が募る俺を差し置いて、東は既にクラスの一員として馴染み始めている。
転校してきたばかりということもあり外交的でフレンドリーな性格のおかげでクラスメイトから注目の的だ。
「支倉おはよ」
そんな声に心臓が跳ねる。
「…はよ」
目を合わせることも出来ずに、俯いたままに小さくそう答える。
「ホームルーム始めるぞ〜」
それとほぼ同時、教室に担任が入ってくる。
ガタガタと音をたてながら皆が席に着く。
「支倉、あとで時間ある?」
「は?」
「昼休みさ…」
「東話聞けよ〜」
軽く俺の肩を叩いて話しかけてくる東と、それをすぐに注意する担任。
その注意に素直にはいと答えて、周りからクスクスと笑われている。
何なんだ、クラスでただ1人笑うことも無くバクバクと鳴る心臓を落ち着かせながら俯いた。
いつも通り5分も経てばホームルームは終わり、俺は終わった瞬間早足にトイレに向かう。
誰にも…いや、東に話しかけられないように。
隣を通り抜ける前に待ってと声をかけられた気がしたけどそれは無視した。
どうせ周りの奴らから声をかけられるだろうし、俺の事なんて追いかけてこないはずだ。
個室に入って大きく溜息を吐き出す。
あと授業まで5分も無いけれど、それまでここで過ごそう。
そう決めて大きく深呼吸をして、チャイムの鳴る1分前にトイレを出る。
教室に戻って席に着いても、東は俺に話しかけてこなかった。
最初のコメントを投稿しよう!