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結局、真田さんとはそのまま話し合うこともなく数日が経過した。
私の方から彼に話しかけようともしてみたんだけど、顔を見るだけで避けられてしまう。
意識されているのはいいけど、こんな意識のされ方はやっぱり嬉しくない。全然嬉しくない。
真田さんが何を考えているのか、すごく気になるのに。
「それでは、やはり真田さんとのデートは諦めるということでよろしいですね?」
「うん……」
お嬢様との仲が良くなるどころか離れてしまった今、ゆみのメガネを外していくことなんてできない。
矢野の確認に、私は渋々うなずくしかなかった。
「では、真田さんには日曜日に特別な仕事を与えておきますね」
「うん」
ショックが大きすぎて顔を上げる気力さえなかった。
どうしたら真田さんと仲良くなれるのか分からない。
いつでも会える距離にいるのに、誤解されてばかりで、嫌われてばかり。
もう、疲れた。
さすがの私も心が折れた。
◇
翌日、学校へ向かってトボトボ歩いていると、真田さんが道の途中で私を待っていた。
気のせいか、彼の顔も暗かった。
「日曜日のことなんだけどさ」
「はい」
「急に仕事を押し付けられて、行くのが難しくなった」
「そうですか」
聞く前から分かっていた話だ。もう心の準備はできていた。
「日曜日以外だったら行けるかもしれないけど、どうする?」
「……お仕事が忙しいなら、仕方ないです。もう諦めます」
私は作り笑いを浮かべて、彼を見上げた。
真田さんは申し訳なさそうな顔をしていた。
「でも、それじゃ俺の気が──」
「いいんです。私のことは気にしないでください。真田さんとはこうして毎日お話できるだけで楽しいし」
それだけで、幸せだから。
その言葉が頭の中に溢れた瞬間、私の瞳は潤んでいた。
ああ、ヤバい。泣いちゃう。
気持ちが不安定になりすぎた。
私は真田さんから顔を背けて、こっそりと涙を拭いた。
「……泣いてるのか?」
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