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不意に真田さんから尋ねられて、私はびっくりして首を振った。
「泣いてません」
「もしかして……俺と遊びに行けなくなったから?」
真田さんが綺麗な瞳で私を見ている。
いつもは鈍いのに、こういう時だけ鋭いのは何故なんだろう。
見てほしいところは見てくれないのに、見られたくないところは見られてしまう。
真田さんとはいつだってそうしてすれ違う。
「違いますから。真田さんのせいじゃありません」
否定すればするほど、真田さんは思いつめた顔をする。
私は矢野みたいに嘘が巧くない。
ごめんなさい、真田さん。
あなたを巧く騙せなくて。
涙がまた溢れてしまった。
やだ。これじゃまるで真田さんとデートに行けなくて拗ねている子どもみたい。
だけど、本当は行きたかった。
真田さんとどこか。その辺の小さな公園だっていい。
ほんの少しでも穏やかに二人だけの時間を過ごせたら。
それだけで私は。
突然、真田さんの指が私の顎についた涙に触れた。
弾かれたように見上げると、彼は男らしい顔をして私を見つめ、
「行くよ」
と言った。
「行くって……?」
「日曜日。時間は何時になるか分からないけど、できるだけ仕事を早く終わらせて会いに行く。悪いけど、遠くまでは行けないから宮藤家の一番近くの公園でもいいか?」
宮藤家に一番近い公園で待ち合わせ。
それが私たちの精一杯。
だけど、私が夢見た理想そのものだ。
真田さんと心が通じていると錯覚してしまう。
「いつまでも待たせるわけにいかないから、制限時間は六時までにする。それまでに俺が来なかったら、申し訳ないけど諦めてほしい」
「分かりました。待っています」
私は涙を拭いて、微笑んだ。
「真田さんが来るのを、楽しみに待っています……」
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