誤解しないで

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 ◇ 「もう知りません。勝手に正体を知られて、勝手にフラれて泣いてください」  真田さんとやっぱりデートしたいと打ち明けてとうとう矢野に見捨てられたその日の夜。  父の雅臣が私を書斎に呼び出した。    家に帰ってくるとは聞いていたけど、父がいつ帰宅していたのかも知らなかった私にはほとんど不意打ちのような呼び出しだった。  真田さんとのことですっかり忘れていたんだけど──父は私に大事な話があるらしい。  嫌な予感を抱きつつ、私は父の書斎をノックした。 「愛姫です」 「入りなさい」  数ヶ月ぶりに開く書斎は、古い書物の匂いがした。この部屋には天井高くまである本棚が三面に渡って配置され、棚の中には父の蔵書が隙間なく並んでいる。本好きなら堪らない部屋なのだろうと思うけど、私みたいな勉強嫌いは圧迫感を覚えずにはいられない場所だ。  父はその部屋の中心にある肘掛け椅子にゆったりと座っていた。 「久しぶりだな、愛姫。元気にしていたか?」  何を言われるのか構えていったけど、彼の第一声は柔らかい父親の声をしていた。眼鏡の奥の目も笑っている。  私は少しホッとして笑顔を作った。   「お帰りなさい、パパ。私はいつも元気よ」 「勉強の方もちゃんとやっているか?」 「うん。大丈夫」  軽いジャブのような会話の後、父は眼鏡を外した。 「ところで」    来た、本題。再び嫌な予感。 「最近、私に何の断りもなく使用人を一人増やしたそうだが、どうしてそういうことをしたのか理由を聞かせてもらえるかな」  
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